渡したいものがある8

あれからまた何度も試作をして、いよいよバレンタインデー当日。

はじめの頃より見た目も味も良くなったと、自分でも思う。
赤也の事を想って作ったケーキ。
気持ちが伝わるように丁寧にしたラッピング。

朝から何度も渡しにむかったが、常にチョコを受け取ってくれと囲まれていて全く渡せずにいた。

そうこうしているうちに放課後だ。もう渡せないのかもしれないな、そう思いながら教室からテニス部を眺める。今はみんな休憩中らしくベンチでのんびりしている様子がわかる。

もちろんフェンスの周りは女性陣で埋め尽くされている。きっと私のように渡せなかった人が、部活終わりにと待っているんだろう。


このケーキは自分で食べようかな、とぼーっとしていた時携帯が鳴った。もしかしたら親友がどうだったか、とメールをしてきたのかも。こんな惨めな私を慰めてもらおうとゆっくり携帯をひらいた。

そこには親友ではなく、ブン太の名前。不思議に思いもう一度窓の外を見ると、私に気がついたブン太が両手を大きく広げふってきた。

私は小さくふりかえすとメールをようやく読んだ。そこには、部活終わるまで待ってろ裏門にいてくれ、という内容が書かれていた。

よくわからないけど捨てるよりは、ブン太に食べてもらった方が嬉しいな貰ってもらおうかな。少しだけ気が楽になり、いつのまにかケーキの存在が重たく感じていたのがわかった。

「そりゃありったけの気持ちをこめてつくれば重たくもなるよね……」

でも良かったね貰ってくれるかもしれない人がいるよ。部活が終わるまでずっとラッピングされたケーキを眺めていた。

裏門で待っていても人が来る気配はない。まだ、最後のチャンスをかけた人達に囲まれてるのかもしれない。

校庭の方から聞こえてくる声もだんだん少なくなり静になった。もうそろそろ来るかもしれない。いつのまにかしゃがんでいた体を起こし立ち上がる。

「おーいみょうじ!」

大きな声で両手に大荷物を抱えながら、見るからに疲れているブン太がやってくる。

「お疲れさますごい荷物だね」

「こんなにお菓子もらえるって良い日だよな!」

両手に掲げてい荷物を上に持ち上げてにっと笑う。

「ブン太らしいよそれ」

「な、それより渡せてないんだろ?」

「何でわかるの?」

「お前の手にあるもん想像できるからな」

ブン太の目線の先には私の手にある紙袋。赤也に渡そうと思っていたケーキが入っている。

「タイミング掴めなくてさ良かったらブン太もらってよ」

味は良くなってるよと差し出す。

「お前はそれで良いのかよ」

やりいとすぐに受け取ってくれると思っていた。私はなんとなく、差し出した手を引っ込められずにいる。

「誰のために何のために作ったんだよ、今日のためにどんだけ練習してきたんだよ?それをほいほい他の奴に渡すな」

「ブン太……でも、もう渡せる時がないし」

「俺、家知ってるぜ」

「その言い方だとあげる相手知ってるみたいじゃん」

「知ってるもなにも赤也だろい?」

私が誰にあげるのかわからないって、教えろってみんなで聞きに来ていたのに、知っているとはどういうことだ。思わず何も言えずにいるとブン太はこう言った。

「俺らは気がついてたけど本人がわかってねーんだもん」

質問して自覚させようと思っても自分の気持ちと向き合おうとしないし、どうしようかと思ったぜ。

「気がついてた?なんで?いつから?私もわからなかったのに?なんでそんなにみんなで協力してくれるの?」

「だあっめんどくせー!一気に質問すんな!」

「だってブン太が変なこと言うから!」

「とにかく!それ俺は受け取らねーからな」

ブン太はそう言うと私の手ごと紙袋をぐいっと押し返した。その時聞きなれた声がした。

「みょうじ先輩!!!」

声がした方向を見る。ちゃんと着られていない制服、そして表情から慌てて来たのがわかる。

「赤也……」

赤也は私の目の前まで来た。ブン太は呆れた顔をしていた。

「みょうじ先輩!そのチョコ丸井先輩じゃなくて俺にください!!!」

「おい赤也!ずっとみょうじのこと避けてたくせにいきなり来てチョコくれってなんだよ!」

「俺、みょうじ先輩が丸井先輩のこと好きなんだと思って付き合ってる噂もあったしどう接したら良いかわからなくて……でも諦めるなんてできないっす!」

赤也は一呼吸おいて私に言った。



「俺はみょうじ先輩が好きです」



「赤也」

「はい」

「私無視されててすごく傷ついたんだよ?」

「すんませんっした……」

「このチョコはね赤也のために作ったんだよ」

思いきり驚いた顔をした赤也がおもしろくて笑ってしまった。なんだ私達すれ違っていただけだったのか。

「赤也のことが好きです、受け取ってください」

差し出したチョコを嬉しそうに受け取り、大事そうに抱える赤也。
なんとなくはじめたバレンタインデーの試作。今思えばあの時からずっと渡す相手は決まっていたのかもしれない。無意識の私があげたいって思っていたのかもしれない。意識の仕方がわからなかったわたしを成長させてくれた、みんなの協力のおかげで意味のある期間になった。



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