人生で初めての転校。人見知りはしない性格なので学校が変わっても大丈夫だ。そう思っていたのに学校が近づくにつれ緊張でじんわり汗がでてきた。なんで緊張してきたかというと、やたらと浮いているのがわかるからだ。
こんなに大きな進学校でも、やはり新しい顔というのは目立つらしい。それに加え受験時期に転校生というのが珍しいのかとても注目された。すでに転入してくる話がまわっているらしく『ねえ、あの子三年のリボンつけてたけど噂の転入生かな?』という声が聞こえ顔があつくなる。
なんだか恥ずかしくなって顔を隠すために足元を見ながら歩く。
そのまま職員室へ向かうつもりがすっかり迷子になった。春休み中に少し案内をしてもらったのに、人がたくさんいると風景が違って見える。そんな言い訳をしながら記憶を頼りに歩いても歩いても職員室らしい教室がない。
なんで三年生がいるんだろうという声が聞こえてきた。声の主を見るとリボンの色が違うから一年生かもしれない。ひそひそ噂話をするくらいなら声をかけてほしい。三年生のリボンをつけた私が職員室どこですか、なんて一年生であろう子に聞くのも気が引ける。
どうしようかと足元から顔をあげると、キラリと光る銀髪が目に入った。
「あー!!!」
また会えた嬉しさと少しでも知っている人に会えた安堵感から、自分でも驚くくらい大きな声がでてしまった。そのため「ん?」とこちらを見たのは銀髪の彼だけでない。一緒にいる赤髪やウェーブがかった人達もだった。
ちなみに先ほどまで「あの人はなんなんだ」とヒソヒソ話していた人達もビックリした顔をしていた。とりあえず助かったなーと、銀髪さん目掛けてまっすぐ小走りで近づいていく。しかし彼と一緒にいる何人かは鋭い目をして警戒体制をとった。
なんだ、彼のボディーガードかなにかだろうか。そんな考えも一瞬で消え去る。そんなことどうでもいい、とりあえず職員室がどこかわかれば良い。そんな思いで近づいた。
「また会えたね〜!」
そう声をかけるものの目線をズラされた。そんな彼を見て近くにいた人が心配そうに声をかけた。
「知り合いか?」
「さ〜誰かと勘違いしてるんじゃなか」
おかっぱの人の問いに答える彼。この独特な方言は中々いないだろう、それにその目立つ頭だってそうだ。間違えるわけがない。
「間違えてないよ!覚えてないの?この前神じゃ」
神社で会って少しだけ会話したし足首テーピングしてくれたじゃん、そう言いたかったのに口を押えられてしまった。なにするんだ、そう彼を睨もうとしたがもっとするどい目つきで私を見ていた。こわくなって完全に黙ると顔を近づけ耳元で「内緒じゃ言うたやろ」と言われた。必死で頷くとようやく手を離してくれた。そのやりとりを見て「なんだやっぱり知り合いかよぃ」と周りの人は力を抜いた。
「で、君はどうしたの?」
「職員室がどこかわからなくて……」
ウェーブのかかった髪のキレイな人が本題に流してくれたので素直に答えると、素晴らしい提案をしてくれた。
「じゃあ案内してあげるよ、仁王が」
「おい幸村」
「ね、仁王?」
笑顔で言われているのに不思議とちょっとした緊張感が走る。それは彼も同じなのか、なにか言いたそうにしていたセリフを飲み込み「行くぞ」とだけ言って歩き出した。私はありがとう、とみんなにお辞儀をしてから後ろを追いかけた。
「ねえ」
「なんじゃ」
「あなた仁王って呼ばれてるの?」
「まあな、人間の名前なかったら不便じゃし」
「普段は人間として暮らしてるの?」
「暇じゃしな」
こちらを見ずにそっけなく返されても、答えてくれることが嬉しい。
「その名前を教えてくれたら良かったのに」
そうしたらさっきみたいに不審がられずにすんだのになーと笑って言うと、少し困ったような顔をした。
「また会うとは思ってなかった」
ああ、だからあっさり人間じゃないことを教えてくれたのか。そう考えるとなんであの時私にあんなことを言ったのか少しわかった気がした。
「そっか」
「まさかお前さんじゃとはな」
「え?」
ひとりごとだったのだろうか、それから返事はなかった。
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