神社の守り神様7

練習が始まるとさっきまでおしゃべりしていたちよも黙ってしまった。真剣な眼差しで見る先はやっぱり柳生という人だろう。
私はなんとなく気恥ずかしくてなるべく仁王を見ないようにした。全体的にぼーっと見ていると、丸井が両手をふってきた。あわててふりかえそうと思ったけど、周りが「今私にふってくれた!」と大きく手を振っていたのでやめた。自分じゃなかったら恥ずかしい、そう思ったからなんだけど、真っすぐに丸井が近づいてくる。なんとなくずっと視線が私に集中している気がした。すぐそこまで来てやっと逃げようとしたけど呼び止められてしまった。

「みょうじ〜!」

「わあ、はい!」

「俺手ふったんだけど」

「そうだね」

「なんだよわかってたのかよ」

ムスッとしているのでごめんって謝った。ま、いいけどと言う顔は相変わらず不貞腐れているように見える。

「こんな遠いとこからじゃなくて近くに来いよ」

「無理だよ、人多いもん」

「あー、そっか」

周りの視線が痛くて小声で返事しても丸井はしっかり聞き取ってくれた。
それよりも早く戻ってくれと念じていたらそれが通じたのか、丸井!と大きな声で呼ぶ声がした。やっべ、そう呟きながら走り去る。
ちよがすぐに「今叫んだのは副部長の真田だよ」と教えてくれた。さっきの説明通りの人なら、一見怖いけど根が真面目な良い人。真面目だからきっとおしゃべりしている丸井が気になったんだろう。

苦笑しながらその様子を見ていると視界の端に仁王が見えた。私が見た時はもう反対側を向いていたけど、もしかしたら私のことを見ていたんじゃないかって少しだけ思った。理由なんてないけど、ただ、なんとなくそんな感じがした。

クールダウンを始めるころ、たくさんいたギャラリーも少なくなっていた。

「私達も帰ろうか」

「うん、ちよの家はどこ?」

駅名を聞いてもわからない。途中で乗り換えがあって少し遠いんだと言う。でも美味しいお店が多いから今度遊びにおいでと誘ってくれたので、どんな所か今から楽しみである。
同じ電車に乗れるかと期待したが私の最寄り駅を言えば逆方向だった。ちなみにまだ残っている人達は出待ちをするらしい。どこまでも芸能人みたいだなと思う。

帰る途中、神社に続く道で立ち止まる。
そういえば仁王はどこに帰るんだろうと疑問に思った。やっぱりここに帰ってくるのだろうか。ご飯はお風呂はベッドは……家族っているんだろうか。ちょっと考えてみたけど神様の領域を人なんかがわかるかけがないし、あまり深く聞かない方が良いんだろう。
降りてきた老夫婦の手には空っぽの手提げが握られていた。きっとお供えしてきたんだろう。なんでか寂しくなった気持ちが少し軽くなった。



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