もしかしたらもう、学校に来なくなるかもしれない。そんな不安を抱え教室へ入ると、そこにはいつものように仁王がいてすごく安心した。
「おはよう、あのさ、一昨日……」
そう声をかけると肩がピクリと動いたので、聞かない方が良いんだと察する。
「送ってくれてありがとう」
すぐさま続く言葉を変えるとホッとしたように力を抜いたので正解らしい。
「ええよ、あのくらい」
緩く微笑んだ顔に、キュッと胸が締め付けられた気がした。なんだろうこれは、今まで経験のない感覚にそわそわする。じっとしていられなくて机に置いた教科書をまっすぐ整えていると、ちよからメモが回ってきた。
『昼休みは食堂で!』
顔を上げるとちよがこちらを見ていたので頷くと、満足そうに前を向いた。
「食堂くるの三回目だけどやっぱり混んでるね」
「美味しいもん、ここのご飯」
いつもお弁当を持参しているので、一度くらい食べてみたいなと思い献立表を一枚もらう。奥の方に空いている席を見つけ座ると、興奮気味に口を開いた。
「ねえ、土曜日どうだった!?私の話も聞いてほしいけどなまえの話も聞きたい!」
「えっと、私は何話して良いかわからなくて、黙々と帰った」
「仁王は?なんか話かけてこなかったの?」
「うん」
少し会話はしたけどそれは言わない方が良いだろう。それがなければ本当にお互い口を開くことなく帰っただけである。ちよは何か期待していのか、ひどくガッカリした様子だ。
「ちよの話を聞かせてよ」
「もう仁王には感謝で頭が上がらないよ〜!」
「私もあの流れはビックリしちゃった」
「まあ二人きりにはなれなかったんだけどね、他にも同じ方面の人がいてさ」
「でもその様子だといっぱい話せたんじゃない?」
「そう!気を使ってくれてたくさん話かけてくれたの」
うんうん、と相槌を打つと楽しそうにその日の会話を話してくれた。いつも応援していることを知っていたみたいで、テニスの話で結構盛り上がったみたいだ。
そしてすごいのは、次の差入れの約束をしたこと。
「すごーい!じゃあまた行くんだ」
「うん!一人は心細いから一緒に来てよ」
「もちろんだよ、楽しみだね」
いきなりこんなにお近づきになれるなんて!そう喜ぶちよは本当に可愛くて私まで嬉しい気持ちになった。
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