次の日、教室に入ると珍しく仁王から声をかけてきた。
「昨日すぐ帰ったんか?」
「そうだよ。どうしたの?」
「いや、それならええんじゃ」
よくわからないまま会話が終了してしまった。今の質問はなんだったのか、少し困惑しているとちよが小声で教えてくれた。
「なまえ昨日すぐコートの所に来なかったでしょ?」
「うん、上でちょっと見てから帰ったよ」
「それで柳生君と仁王が一緒に出てきたから、仁王になまえもすぐ来ると思うって言っちゃって……」
「え、じゃあ仁王は私のこと待ってたの?」
「たぶん……私と柳生君はすぐに帰っちゃったからわからないけど、さっきのってそういうことだよね」
確かめるため声をかけようとしたが、隣を見るともういなかった。また屋上かもしれない。時計を確認すると朝のSHRが始まるまで、まだ時間があったため教室を出た。
屋上につながる階段の踊り場で仁王の姿が見えた。名前を呼ぼうとして足を止める。仁王じゃない女の人の声が聞こえてきたので、そのまま気配を殺すように影に隠れた。もしかして、そう思いながらこの場を離れないのは盗み聞きになるだろう。それでも聞こえてくる声に集中させてる私は我ながら嫌な女だと思う。
聞こえてきた内容は想像通りの告白だった。
「ずっと好きでした、彼女にしてください」
断っている、そう聞かされていてもこの人とは付き合うかもしれない。そう考えると胃がムカムカして吐き気がした。即答しないのは付き合うかどうか検討でもしているのだろうか。その間が余計に私の思考をどん底まで突き落とす。もしかしたらたった数秒の時間だったかもしれないが、今の私には数分経過したかのように長く感じた。
「……すまんがお前さんのこともよく知らんし」
「これから知っていこうよ!」
「名前も知らんような子とは付き合えん、悪いな」
「本当に?私の名前わからないの?」
「ああ」
「そっか……去年同じクラスだったのにね」
それ以上仁王は何も言おうとしなかった。女の子もそれがわかったのか聞いてくれてありがとうと一言呟いた。階段を降りる音が聞こえたので、静かにそれでいて足早にその場を離れた。
告白の場を目の当たりにし、一気に現実を思い知らされた。今回も断ったみたいだが、これから先もずっとそうなんて言いきることができないと不安になる。このまま彼女ができるのを黙って見届けるくらいなら、気まずくなっても気持ちを伝えた方が良い。ようやく自分の気持ちと向き合う覚悟ができた。
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