仁王は黙っているが、私が泣いたことでばつが悪そうにしているのがわかる。泣くのはずるい、そう思い慌てて袖で涙を拭った。
「私のせいでずっとしんどい思いしてたなら、ごめんなさい」
「いや、今のは俺が悪い。お前さんの心が刺すように痛くて、昔と今がごちゃ混ぜになった」
「ううん。それより私は仁王のこと、わからなかったのが悔しいよ」
私は覚えていなかったのに。ああ、そういえば学校でまた会った時に、まさかお前だとはって言っていたのはこのことだったのかな。あの時に勇気を出して聞いていたら、もう少し違う今があったかもしれない。
「人間とは思えんくらいの真っすぐさじゃな」
「あのね、守り神だって人と寄り添えることは見ててわかる。なのに仁王が人間じゃないからとかそういうことで線引きするのが少し悲しい」
「線引きせんかったら、神様の立場がないじゃろ」
「そっか。それも、そうだね」
「俺だってほんまは……」
何かを言いかけて口を閉じた。その様子を見ていた私は、続きを促すかどうしようかと考えようとしてやめた。何か考えこんでいるように見えたから、黙って待つことに決める。
どのくらい沈黙が続いただろうか、まだ少し明るかった空も暗くなってしまった。冬は日が暮れるのが早いが、自然だらけのこの場所だと街明かりも少なくよけいに暗く感じる。そうなると急激に寒くなるもので、意思とは関係なくブルリと体が震えた。
「俺、神使になれて良かったって思ってるんじゃ」
ポツリとこぼした言葉は、口にすることを躊躇しているのか小さかった。
「でもほんまに良かったんかって、こんなに考える日がくるなんて思ってなかった。どのみち人間にはなれやしないのにな」
「仁王……?」
「違う、仁王じゃない」
「ねえ、やめて、何を言おうとしてるの?」
寂しそうに笑うから、なんでか私が泣きたくなった。もしかしたら既に泣いていたかもしれない。ざわざわと木々が揺れるのは、風のせいだけじゃないような気がした。仁王が今からとんでもないことをしようとしているから止めなければ、そう私の五感が騒ぐ。お願いやめて、そう叫んでも仁王には届かない。力づくにでも、そう思い近づこうとした時、仁王の口がゆっくり動いた。
「俺のほんまの名前は――」
back もくじ next