今日のみんなはなんだというのか、モヤモヤした気持ちのまま神社まで来た。きっと仁王は忙しくて学校に来れなかっただけだ。サボり癖があると誰かが言っていたけど、神の使いがあるからなんて言えるわけがない。きっと今日もサボりだと思われて怒ったみんながあんなことを口にしただけだ。自分にそう言い聞かせる。
でも階段をのぼりきって見える景色に、狐の像がなかった。
もしかして本当に仁王は存在しないのか、今までずっと長い夢を見ていたのか。頭が混乱し、気持ち悪い汗がでる。急なひどい動悸に襲われたせいか足元がふらついた。少ししゃがんでも良いだろうか、額を流れる汗を手で拭いながら近くの椅子にゆっくりと腰を下ろした。
「大丈夫ですか?」
頭上からふってきた声に顔を上げると、あのおじいさんがいた。でもこのおじいさんとの記憶だって私が作り上げたものかもしれない。それともまだ夢を見ているのだろうか、そうだとしたらすごく夢見悪いんだなと思った。
「あ……すみません、もう行くので」
神聖な場所で休むという罪悪感から立ち上がろうとすると、おじいさんは私の肩に手を置いた。
「顔色が悪い、ゆっくりしてください」
「ごめんなさい、お言葉に甘えさせていただきます」
「私もお隣良いですか?少しあなたとお話しがしたい」
「はい」
スカートの裾を寄せながら少し横にずれる。失礼します、そう言うとおじいさんは隣に腰かけた。
「体調が悪い時にすみません、あなたには話しておくべきだと思ったのです」
「なんでしょうか?」
「ひとまず、お久しぶりです。私はあなたの生まれ育った土地を守っている者です」
「もしかして、兎が神使の、神様ですか?」
「ええ、大きくなりましたね」
ニッコリ笑った顔はひどく私を安心させた。
神様は続けて話した。私が産まれた時から見ていたこと、神使が見えた時は驚いたが納得したこと。ここの神様とはよく交流をする仲であること、仁王のことを神使になる前からかわいがっていること。
「じゃあ、やっぱり仁王はいるんですよね?みんな知らないって言うから、私なんでかわからなくて、ここに来ても像は無くなってるし」
言葉を詰まらせながらそう聞くと、さっきまでの笑顔は消え真剣な表情になった。
「本当に、わかりませんか?」
「なんで、だって……」
その言い方だと私は原因を知っていることになる。仁王との会話の記憶をできる限り掘り起こす。そして一番初めに会った時の会話を思い出した。
「もしかして……でも待って、私、名前聞いてない!」
本名を知られると消えてなくなる、そう言っていた。でも私は聞いていない。そう訴えたが苦しそうに首を横にふった。
「彼は一番してはいけないことをした。だからここの神があなたとみんなの記憶を消したんです」
「私は、仁王のこと覚えてるのに?」
「あなたはやはりちょっと特別みたいですね」
それは神使が見えたことを話しているのだろうか、こんなに辛い思いをするなら特別じゃなくていい。いっそみんなのように忘れられたら良かったのに、そう思ってしまった。
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