今夜の電話は報告からはじまる。
「付き合うことになった」
『そう、なんだ……良かったね』
「でもなんか違う」
『何が違うの?』
「なんか疲れる」
『付き合いたてだし、まだ感覚掴めてないだけじゃないかな』
告白、嬉しかったでしょう?の言葉に確かに可愛いとは思った。そんなものなんかのー、とその話題を終わらせて、今日のテレビはどれが面白かったかなどの話をして電話を切った。
誰かと付き合うというのは今までなくて、ちゃんとした交際というのはこれが初めてみたいなもんだ。だからだろうか、他人と恋人という繋がりに何故か窮屈に感じてしまう。
でもみょうじが言っていた、今日が初日で感覚が掴めてないだけ。確かにそうだ、彼氏彼女になったからといっていきなり心を開けるわけでもない。これからお互いにどんな付き合い方がしたいか、どんな人か探って関係をつくっていくものなのだろう。彼女に対するもやもやも消えていて、ゆっくりと眠りについた。
それ以来一緒に帰る日が増え、変わらず彼女が何かを話してそれに適当に相槌をうつのが定番になってきた。ちょっとずつ距離は縮まっているとは思うが、やはり送り終わるとほっとする自分がいる。
ある日、帰っている時に「付き合ってるんだしデートしようよ」と言われ特に予定もなかったので行くことにした。彼女と初のデートだというのに楽しみとは思わなくて、めんどくさいなと思ってしまった。
当日は普通におはようから始まって、彼女がぐいぐいとリードしてきた。特に何も考えていなかった俺はそのまま身を任せる。
内容はウィンドウショッピングからはじまる。彼女がこれが可愛いとかこれが欲しいと言うなか、違うものを見てみょうじが好きそうだとか似合いそうだとか考えていた。自然と笑顔になっていたみたいで「仁王君もこういうデート好きなんだね」と満足そうに言われる。それに対して、ああそうだデート中だった、と思い出した。
その後はお茶をしながらおしゃべりをしてという感じだった。
彼女は楽しそうに学校でこういうことがあって、家ではこういうことがあって、友達がこんなことを言っていたんだよ。とそんな話をひたすらしていて、俺には何もおもしろくなくて「うん」「そうか」などとやはり適当な相槌しかできない。頭の中でははやく帰りたいとか、家でテレビ見てる方がいくぶん楽しいだとか、はやくみょうじに電話したいなとかそんなことばかりで始終全然違うことを考えていた。うわの空になっている俺に気づく様子もなく、彼女は最後まで満足気であった。
付き合うってこんなものなのだろうか。
俺は彼女の何に惹かれていたのだろうか。
情けなくも、しばらく翻弄されていた相手と付き合うことになったというのに、なんでこんなに楽しくないんだろう。
帰ってからは疲れがどっと出て夕飯もろくに食べずに横になった。
みょうじに電話したいけど、この調子じゃ心配させて終わりそうだ。
それより、彼女が休み時間に頻繁に現れるようになってみょうじと話す時間もなくり少し距離が開いた気がして、前のように気楽にかける事がしにくくなっていた。
付き合って二週間……もう三ヶ月くらいの気分だ、正直しんどい。
手に握っていた携帯から新着のお知らせが届く。きっと彼女から今日のデートについてだろう、と開くことなくそのまま目を閉じた。
一緒に過ごす時間は減っても元気がないことくらいは気付ける。でもやっぱり学校じゃ中々声をかけるタイミングがなくて、久しぶりに電話をかけた。
『もしもし……』
「なんじゃ元気ないのう」
『そんなこと、ないよ』
もしかして噂の彼と喧嘩でもしたのか。元気なフリをしているのに落ち込んでいることがわかる、ということはよっぽどのことがあったんだろうって思った。だからって無理に何があったかなんて聞かない。話したくなったら話すだろうから。でもこのままほっておくわけにはいかないって思った。
「明日、あいてるか?」
『うん?』
「いつも話聞いてもらってるお礼に、ケーキくらいご馳走させてくれんか」
俺には一応彼女がいるのに、それって浮気にならないだろうか。そんな少し戸惑った様子を見せたが、俺の意図をくんでくれたらしく「わかった、ありがとう」と言ってくれた。じゃあ14時に駅前で、という簡単な待ち合わせを決めた。
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