「みょうじこっちじゃ」
早めに待ち合わせ場所について待っていると少し離れたところでキョロキョロしている姿を見つけた。その姿がなんだか可愛くて少し様子を見ていたが気づく様子がないので声をかけると、嬉しそうに小走りでやってきた。
「早いね〜どこ行くの?」
「この辺で美味しいって有名なケーキ屋があるらしい、そこ行こ」
学校でも思っていたがみょうじは背が低いからか足幅が狭い。そのペースに合わせてゆっくり歩くと「ありがとう」と笑った。こういう細かいところに気付けるって人をよく見てるんだろうなと思う。なんだか照れくさくて「なにが」ってそっけなく答えてしまった。
みょうじは気にするでもなく「なに食べようかなあ」なんてメニューもまだ見ていないのに「やっぱり苺かなチョコかな」って悩んでいた。真剣に悩んでいるのか眉間に皺が寄っている。
「ここ」
もう一度「ここ」と言ってみょうじの眉間をちょんと触れる。みょうじは顔を真っ赤にし慌てて離れ触れられたところを両手でおさえた。
「な、なに?!」
「しわ、とれんくなるぜよ」
「しわ……」
「きゅーって寄っとった」
伸ばそうとしているのかおでこを左右に引っ張りだしたから思わず笑ってしまった。「とれたとれた」と頭をくしゃっと撫でる。
「心配せんでも大丈夫じゃ」
「……え?」
「丸井のオススメの店じゃから間違いないぜよ」
「あ、そうなんだ。何が特に美味しいって言ってた?」
「聞いたけど覚えれんかった」
人気のお店とあって少し並んだが、思っていたよりは早く入れた。
「わー全部美味しそう!仁王はどれにする?」
メニューを見て目を輝かせるみょうじにほっとした。気分転換になればと連れてきたケーキ屋、ここを選んで正解みたいだ。それに丸井のオススメというだけあって、確かにどれも美味しそうだ。
「俺はレモンタルトにしようかの」
「私はお店オススメのセットにしようかな〜」
ケーキが運ばれてきてからずっと笑顔のみょうじ。連れてきて良かったと素直に思う。自然とこっちも笑顔になれる。
「美味しい!さすが丸井君のオススメなだけあるね」
「そうじゃな」
「紅茶も良い香りだし優雅だ〜」
「あまりこういう所には来ないんか」
「お母さんと買い物に行った時は入るよ!でも友達とは中々ないね」
「友達とはどこに行くんじゃ」
「ファストフードかファミレスかだよ」
「俺も、安くて居座れるからな」
「そうそう、つい長居しちゃうよね」
久しぶりにみょうじと話をした気がする。やっぱり一緒にいる時間は楽しくて落ち着く。同じクラスなのに、最近どうなんだという近状報告やらどうでも良い話で盛り上がった。しばらくそこで話に夢中になり、夕方になってからようやく外へと出る。待ち合わせの時も少し街をぶらついて、帰る頃にはまた少し気分が落ち込んでいるように見えた。
なんでそんな顔をするんだ、せっかく笑顔が見れたのに、もっともっと笑いんしゃい。お前さんは笑ってる方が良いぜよ。
なあ、いつもの笑顔を俺に見せんしゃい。
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