5コール

次の日朝練が終わり、思うように動けなかったなと一つため息をついて教室へ戻ると友田がきていた。俺を待っていたらしく、今日の放課後は一緒に帰ろうと誘われる。

「いつもの所で待っとって」

そう返事をしたところでみょうじと目が合う。それに反応したことに彼女も気がついたらしく俺の腕にまとわりついて「じゃあ今日の放課後はデートだねっ楽しみだなあ」と言って自分のクラスへと戻っていった。

「仁王、あの子とデートするの?」

「ん、言うてもちょっと寄り道して帰るだけじゃ」

あんなところ見られたくなかったし聞かれたくなかった。気まずいと感じているのは俺だけだろうか。

「元気ない?」

「ちょっとな」

大丈夫?と聞かれたので大丈夫じゃとみょうじの頭をぽんと一撫でし、よくわからない罪悪感と居心地の悪さから逃げるように自分の席に座った。



部活が終わり今から彼女と帰るのかと思ったらしんどくて、いつも以上にだらだらと着替えていた。それに気がついた柳が声をかけてきた。

「仁王、疲れているのか」

「部活で疲れとるわけじゃない」

「どうしたんだよ、可愛い彼女待ってるんだろい」

「その彼女と帰るのがしんどいなと思ってたんじゃ」

「えー!今が楽しい時じゃないっすか」

「俺ははよ帰ってみょうじと電話がしたい」

次々と声をかけてくる仲間に本音をポロッとだしてしまった。

「ふむ、仁王が本音をだすということはよほど疲れているんだな」

「参謀ノートに何か書き足すのやめてくれんかの」

「でもよー彼女と帰るのが嫌でみょうじの声が聞きたいって、お前みょうじが好きなんじゃねーの?」

その丸井の言葉に部室がしんと静かになった。

「僕も今の話だけ聞いていたらそう思うな」

「仁王君は今まで恋愛に興味を示さなかったので、好きという事がわかっていないのかもしれませんね」

「柳生までみんな好き勝手言うてくれるのう」

とりあえずお疲れさん、そう言って出たものの俺の頭は先程のみんなの言葉がまわっていた。

少し上の空の俺にも気がつかず嬉しそうに駆け寄ってくる彼女。

「お疲れさま仁王!はやく行こう」

なんでだろうこの時の彼女の目を見て思った、本当に好きなのは彼女ではないと。先程みんなに言われたせいだろうか、それとも自分で気がつかないふりををしていたのだろうか。恋愛において重大だと思われることを思い出した。自ら彼女と一緒に帰りたいとか昼休みに一緒に過ごしたいとかデートがしたいとか、一度も思った事がない。いつも彼女からで、誘われる度にめんどくさいと感じていた。彼女に恋しているわけではない、と気がついてしまった。そうしたらいてもたってもいられなくて。はやくみょうじの声が聞きたいと思ってしまった。

帰ってからどうやって別れようか、そんなことを考えていた。みょうじに相談しても変に心配されるだろう。やっぱり付き合えない、そうストレートに言えば傷つけるかもしれない。やっぱりテニスに集中したいと言えば聞こえは良いだろうが、その後にもしみょうじと付き合えるようになったら逆恨みをするかもしれない。今電話をすると相談したくなってしまう、そう思って解決するまで我慢しようと決めた。どうするのが一番平和な別れ方か、悩みはすぐに解決することになる。



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