次の日の昼休み。
教室にいると友田が来てしまうから携帯を置いて屋上で寛いでいたら、みょうじが入ってきたのが見えた。もしかして俺を追いかけてきたのかも、そう期待して声をかけようとしたら、その後ろから友田も入ってきた。死角になるところに体をひそめ、別になにもやましいことなんてないけど、もう条件反射かもしれないと苦笑してしまう。なんで二人一緒にいるのか、という疑問は少しあったがまさかこんなありきたりな展開が始まるとは思ってもいなかった。
「もう二度と仁王君に近づかないでください」
「なにそれ」
「彼氏がいるんですよね」
「女をとっかえひっかえ、そんな人をちょっとからかうくらい良いじゃない」
「そんな噂、一緒にいてそれが嘘だってこともわからないんですか」
「今おもしろい事になってきてるんだから邪魔しないでよ」
来るなり始まる会話に。もしかしたら今までもこういう会話をしていたのか、もしくは友田のことを始めから知っていたのかもしれない。そう思ったが、初めから知っていたならきっとなにかしらの方法で教えてくれたはずだ。とすれば、あの元気がなくなった日に知ったのだろう。人のことを自分のことのように苦しむなんて、苦しんでいるのは自分のせいだっただなんて、元気になってほしいと思っていた自分が恥ずかしい。
友田が先に出て行き、みょうじはその後静かに出て行った。
まんまとペテンにかけられたというわけか。ずっと感じていた違和感、それは好きだというわりに自分のことばかりなところだったのかもしれない。でも、これで別れる理由ができた。そう思うと友田に対する怒りよりも解放感の方が勝って、体が軽くなったようにスッキリした。
夜、久しぶりに電話をした。
ずるい自分は、本当に好きなのは誰なのかを言わずに悩んでいるふりをする。まるでみょうじを試すかのように。
「もしもし」
『はーい、今日は楽しかった?』
「疲れたなり」
『部活の後だもんね』
「最近わからないことがあるんじゃ」
彼女のことは好きではないかもしれないということ、そして本当に好きなのは別の人かもしれないということ。でも本当に好きかもしれない人には、散々情けないところを見せてしまっているため今更何も言えないということ。
『仁王は仁王だよ。本当の自分をわかってくれる人がいるよ。情けないとか言わないで』
「みょうじが言うと本当にそうなんじゃって思える、いつもありがとうな」
電話を切って改めて思う。友田の事はやっぱり好きとは違う、いつもと違う告白をされたから興味を持っただけだ。一緒にいたいと思うのも安心するのも声を聞きたいと思うのも笑顔を見たいと思うのも自分の元気の源も、全部全部、友田ではなかった。
いつも傍にいてくれるから、当たり前のように受け入れてくれるから気がつかなかった。いつも笑ってる俺の傍にずっといてくれていたのに。好きという気持ちはこういうことなんだなと今わかった。確信した。
でも、今更言えない。
お前が、みょうじが好きだなんて言えない。
それなのに頭に思い浮かぶのはみょうじだけで、彼女を自分のものにしたいと強く思った。気持ちを伝えたら駄目だと隠そうとする自分と、ここまでわかってしまったらもう駄目だと気持ちを引きずり出そうとするもう一人の自分がいる。
たとえ気持ちを伝えられなくともこのままじゃ駄目だと思い、すぐに友田に電話をして別れると言った。彼女には、私だって好きじゃないしあんたで遊ぼうと思っただけで本命の彼氏いるからと言われた。すでに冷めきっていた俺はそれに対して何も感じなかった。むしろあの時なんで翻弄されていたかが不思議なくらいだった。
短い間だったが長く感じていた関係が終わったとたんに訪れる解放感。もう自由のはずなのに、簡単に付き合ってしまいこんなに早く別れたことの戸惑いと自分の大切な人に対する罪悪感からしばし放心状態になった。
明日になれば、みょうじに会える。
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