先生の姿はまだなくて、一人だけで放り込まれたんだろうなと思うと、少し同情してしまう。しかしこの優しさが駄目だった。
誰もみょうじのそばにいないので近寄り小声で話しかける。
「おい、大丈夫か」
「…………」
「ないとは思うけど俺の家にいるとか絶対に言うなよ」
「…………」
「まあ困ったら声かけるくらいは良いからよ」
目線も合わないし返事が全然ないが聞いている様子はあるので用件だけ伝える。そういうことでシクヨロ、最後にそれだけ言うと錆びたロボットのようにこちらを見た。ものすごく機嫌が悪そうだ。そう、まるで話かけんなというオーラ……。肩をすくめて自分の席へ戻ると仁王がやってきた。
「なんじゃ、あいつ知り合いか?」
「知り合いというか、朝学校の行き方聞かれたんだよい」
「へえ、転入生来るなんて聞いてなかったぜよ」
「だよな。みんなも声かけていいのかわかんないって空気がすごい」
「そやのに真っすぐ話かけに行った丸井は目立ってたなり」
その一言にやっちまったと思った。でもとっさに嘘ではない嘘をついたし、大丈夫だ。と思いたい。どこまで感づいているのかわからないが、ドンマイと仁王は笑って言った。
先生が教室に入ってきて朝礼をかけると、みょうじを前に来るよう促して説明しだした。この時、俺は先生に余計なこと言うなよという念をものすごく送った。
「えーまずは気づいてると思うが転入生が来た。家の事情で一緒に過ごすのは少しの間だしかないから、今のうちに仲良くなっとけよ」
どんな事情だろう、人形みたい――決して良い印象ではないざわつきが聞こえる。あれだけ無表情でいれば、そりゃあイメージも良くないだろう。自己紹介をするように言われ待つこと数秒、やっと口を開いた。
「みょうじなまえ、コミュ障です」
「……もうちょっとなにかないかな?」
「早く帰りたいです」
ボソリと呟かれた言葉に先生は緊張してるんだなとフォローを入れた。そしてあろうことか俺に矛先を変えた。
「丸井、家近いんだろ?面倒見てやってくれな」
丸井、家……というところで心臓が止まるかと思った。冷や汗が出て動揺している俺に、任せろと言わんばかりのウインクを投げられた。だから俺は下敷きで跳ね返してやった。余計なこと言いやがって!
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