トラブルトラベル11

動画を撮ってからなんだかんだと疲れてしまい、もう二度と撮らないと誓った。
なので図書室で『初心者でもわかるテニス』という本を借りて勉強をしている。わかりやすいタイトルなのに中身がわかりにくくて、初心者のレベルがそもそも高い初心者にすら達していないと白目をむきそうになった。
ただこの本は堂々と読むと周りに突っ込まれそうなので人気のない場所や家でこそこそ読むことにしている。

そんなことをして数日が経ったある日、忍足に声をかけられた。

「今日はよろしゅうな!」

「ん?なになに?」

「日直やで!」

「マジかー」

という会話を朝にして、休み時間は交代で物を運んだり黒板を消したりした。

考えてみたら、せっかく大好きな四天の世界に入り込んでいるのになにも楽しくない。テニスルールわからないし、キツクあたってくる人もいる。
もっとこう……トリップ夢みたいに何かチートな設定くれても良いと思うし、それこそ逆ハーとまではいかなくても、みんなと仲良しこよしで良くないか!?!?

唐突に表れる不満。が爆発しかけている。

なぜかって?
目の前の忍足が放課後で時間があるせいか思い出話をしだしてきたけど、もちろん私の記憶にはなくて一切わからないからだ。

「ほんでさ、あの時みょうじだけ食べても食べても最後までタコが入ってなかったやん」

「いや、もうたこ焼きちゃうやん!焼きやん!」

「いや今つっこむん!?でもあの時もそう言うててほんまおもろかったわ!怒るどころかしばらくネタにしてて、そういうとこええよな〜」

「え?告白?」

ちゃうわ!とツッコミを入れた忍足の顔は赤かった。こういうかわいい感じはイメージ通りだ。イメージとズレのない忍足といる時が、一番安心するかもしれない。

「財前に入部してほしくて必死やった時もみょうじだけガンガン悪態つかれてたのに全然めげんかったよな」

「え、私メンタル強すぎやろ」

「いや自分のことやん!意外とドエムやなってあの時思った」

「思わないでほしい」

それからもあの時は〜と話しかけてきたがもう反応する元気もなく「そうやっけ」「あー」と適当に返事をしていたら、さすがに不審がられた。

「どないしたん、もうボケはじまっとるんか?」

「普通にわからん、記憶にない」

「おいおい大事な思い出やん!忘れたらあかんやろー!」

めんどくさくなって素直に答えると、忘れるなと言いながらも疲れてるんやなと頭をポンポンされた。唯一の優しさと言っても過言ではない忍足からの優しさ支給。なんだかむずがゆくなってしまったので、残りの仕事は引き受けて部活へ行ってもらった。

教室を出ていく時の忍足の顔が少し不安混じりだったのが少し気になったが、『まあ、どうせ夢やし』と気づかないフリをした。



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