素直になれない3

「なに、これ?」

白石が出してきた写真は、可愛いとは言い難いが毛並みの綺麗な白猫の写真。

「なにってエクスタちゃんの写真や」

「エクスタ……」

「おん、美人やろ」

とんでもない名前に正直者の私にはとても”うん美人やね”とは答えられなかった。

「写真貼るんや」

なんとなくペラリとめくると、後ろには丁寧に日付と場所が書かれていた。マメっぽいもんな、こんなところにまで完璧な性格が表れるのはちょっとおもしろい。

「スペース埋めれるし、写真ある方が目惹くやろ」

その発言に私は写真から白石に視線をうつす。スペースを写真で埋めてしまう、その発想はなんだか手抜きというかサボりなのではと思ってしまった。

「真面目なの不真面目なの?」

「真面目やん、けど上手いこと手抜きするのも大事やろ」

作る方も読む方もな、と続けられた言葉にまた意外な側面を見た気分だ。ただ、読むほうも手抜き、というのは息抜きという意味なんだろう。さっき目を惹くというのも心理戦なんだろうし、活字の情報でぎちぎちなものより最後まで読んでもらえて読者は増える可能性が高い。

「へえ、なんでもきっちりやりたい人かと思ってた」

「そうでもないで」

「なあ、これ裏にメモあるけど切っても大丈夫なん?」

「おん、大丈夫やで」

何枚か渡された写真を小さく切りはじめた。円形にしたり波型に切ってみたりしていると、器用やなと言われた。しかも俺やったら四角にしか切ることできへんかったわ、なんて言うから可愛く切り抜く白石を想像して小さく笑った。それはちょっと違う目線で見てしまうかもしれない。

「それでええんちゃうの」

「なあみょうじさんはどんな人が好きなん?」

「なんやねん急に、しかも授業中に」

「せやかて工藤」

「誰が名探偵や」

思わず反応してしまうのは大阪人としてしかたないと思う。ちくしょう、ノリは返さずにいられない。しかも流れが綺麗だったもんだからちょっと嬉しいじゃないか。

「ははっ!やってみょうじさんこういう時やないと話してくれへんねんもん」

「よー嫌ってる相手と喋りたがるな」

「なんやかんや喋ってくれるからな」

私なら関わろうとしないのにな、切っている手を止めて白石を見れば、そういう顔で何人も落としてきたんだろうなと思ってしまう程の甘い顔をしていた。うっかりドキっとしてしまった。

「……自分をちゃんと持ってる人が好き」

そう、白石とは違ってちゃんと自分の意見を言えるようなブレない人が好きなのだ。人や空気に合わせるのでなく、本当に思っていることを。

「みょうじさんは自分もってそうやもんな」

そう言われて心が重くなった。ずきっときたというのがしっくりくる。私は、持っていない。自分をちゃんと持ってない。だからこそ、そういう人に惹かれるのだ。私は白石みたいに誰にでも平等にすることもできない。ただわがままを言って駄々をこねているだけなのはわかっている。何も持っていないのに嫌いだとか言ってしまうことの醜さも。

「白石は、」

「おん?」

「白石は好きな人に好かれようとか思わへんの?」

嫌われている理由や程度にもよるが、私なら諦めるかもしくは頑張るだろう。白石はきっと諦めて遠目で見ているタイプなんだろうなという先入観から聞くと意外な答えが返ってきた。

「仲良くなる努力はしとるよ、無関心やないだけ接しやすいし」

「その努力相手に伝わってるん」

「どうやろ、うざいだけかもしらんな」

思い出しながら話しているのだろうか、楽しそうな空気に少し胸がざわついた。苦笑する白石に、誰にでも好かれる人に好かれる女性を想像してしまい、イライラしてきた。

「そんな人やめて好きや言うてくれる人と付き合ったらええのに。私にもそうやけど、ただみんなに好かれたいだけに見えるよ。実際に仲良くなったら飽きるんちゃう?珍しいんやろ、ちやほやしてくれへん人が」

私は写真に切る手を止めることなく、白石の顔を見ることもなく、思っていたことを口に出した。そうでもしないと、よくわからない苛つきが止まらなく感じたからだ。だから気がつかなかった、白石が怒っていることに。


「やめえや」

「なに?」

ハッキリとした声に私は手を止め白石を見る。毅然として返したが、いきなりの変化に冷や汗がでた。

「何も知らんとそうやって言うん止め」

「…なにが」

可愛げない返事をしてしまうが、内心どうしようとドキドキしていた。温厚な白石が怒るわけがない、どこかでそう甘えていた。

「別に悔しいから落としたろとか思ってへん。ただ周りに影響されない強さとか冷静なとことか物怖じしないとことか、でもほんまは弱いのに強がってるとこが好きになったんや」

「ふうん……」

「ほんまに好きやねん。やから、俺の好きな人そんな人とか言わんといて、俺の事はどう言うても良いから」

「好きとかはうちやなくて本人に言いなよ」

ドキっとした。

このドキはさっきとは違うドキである。いやいや、ありえないでしょ。
『ほんまに好きやねん』
そう言った彼の言葉が本気だというのが、顔を見ててわからない方がおかしい。まるで自分が言われてると、錯覚してしまうほどだった。怒ってる白石も、誰かを本気で想う白石も、初めて見た。心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。

心臓がばくばくしてる、気持ち悪い。

白石も、そんな顔できるんだ。
白石も、あんな事言えるんだ。

そっと周りを見渡せば自分たちの広告作りに夢中で、私達の空気の異変に気がついた人はいなさそうだ。

なんやねん、みんなにはヘラヘラ優しいくせに。私には強気でくるんか。もう嫌われてるから、嫌われたらどうしようとかそんなのはないってことか。さっさと告白して派手にフラれてまえ。



何故か泣きそうになった。


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