「保健室なら、俺が連れて行く」
白石だった。
「そうや保健委員やもんな、任せるわ」
白石に私をそっと委ねると、彼はぽんぽんと頭を軽く撫で友達の所へと戻った。私、名前も知らない人に頭撫でられた。ぼーとそんな事を思っていると白石が「行くで」とはや歩きで保健室へ急ぐ。
「どないしたん?」
「へ?」
急に立ち止まる白石。階段の踊り場の隅っこで、邪魔にならないように道を開ける。
「何で泣いたんや、って聞いてるねん」
「あ、いや、なんでやろ」
「わからんのん?」
「わかりたく、ない」
「なんやそれ」
「白石は何を怒ってるん?」
私を連れて行くと言い出した時からどこか不機嫌なのだ。私には態度が違うとはいえ、そんなイライラしている感情を出されるとさすがに戸惑う物がある。
「怒っとるというか、ヤキモチというか……」
「は?白石同じクラスに好きな人おったん?」
ほなうちに構わんと戻りいや、一人で行けるし。ていうか何で保健室に行かなあかんのかわからん。私がそう言うと白石はますます眉間にシワを寄せる。
ああ、そうなんや。好きな人と仲良くなれたんや。それやのにその好きな人を教室においてきてしまったんだ。その彼女が他の男子と仲良くしてるからヤキモチ妬いているんだ。それでも保健委員とはいえ私相手に優しさを出すだなんてよくわからないことをするな。
「良かった、やん」
「え?」
「仲良くなれたんやろ?努力した甲斐があったやん。ほなやっぱり戻った方が良いで、誤解しとるかもしらん」
「……誤解して気にしてくれた方が良いわ」
「うちは当て馬か」
「なんでやねん!」
「嘘や、でもほんま一人で行けるから」
私との関係を誤解して悲しむ彼女に、俺が好きなのはお前や、とか言うのか、完全に当て馬だ。そう思うと一気にあほらしくなった。何かを考えている彼を置いて私は歩き出す。そのまま階段を下りきったら保健室でサボろう。
なんや、好きな人とうまくいってるんかい。ほななんで私にかまうねん。
あ、そうか。そういう人やったな。
誰にでも優しくて、空気を読んで、みんなに合わせて。
あんなにむかついてたのに今はすごく悲しい。
わかりたくなかったけど、わかってしまった。
あんなに嫌いだったはずなのに。
いつの間に好きになってたんだろう。
いつから好きだったんだろう。
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