「みょうじさん!」
一人になりたいたから白石を置いて保健室でサボろうとしたのに、あろうことか彼は追いかけてきた。
「え、なに、なんで?」
人がセンチメンタルなってるのに、なんでこうも追い討ちかけにくるかな。
「やっぱり心配やから一緒に行く」
「白石ってさ、なんでモテるんやろな」
「いきなりやな」
「いや、みんな白石の何が良いんやろ思ってん」
というか、私は白石のどこが好きになったかわからなくて、とは言えなかった。
ずっと嫌いだと思ってた。みんなに優しいところ。でも、本当はみんなに優しいくするからヤキモチやいていただけだとしたら、本当に情けない。私だけを見てほしいのに、と白石本人にあたっていただけだ。それも嫌いだなんて言ってしまった。平気そうな顔をして普通に接してくれているとはいえ白石だって人間だ。少しも傷つかなかったわけではないと思う。それも、みんなに好かれていたいタイプなんだからよけいに。
「どんだけ俺の事嫌いやねん」
はあ、とため息をつき行くでと優しく手を握ってきた。
手を離そうとしても男の力にはかなわなくて、されるがまま繋がれたまま歩くことになってしまった。
白石には好きな人がいるのに、ただのクラスメートにも心配してくる。誰にでも、平等に。そしてあろうことか、私との関係を勘違いさせ、やきもちをやかせようとしているのだ。教室に残された白石の想い人もきっと、白石を好きに違いない。今どんな思いをしているんだろう、と思うと私の方が切なくなった。
繋がった手から私のどろどろした気持ちが伝わりそうで、汗がでてきた。ふきたくて手を離そうとしたら白石が握りなおして聞いてきた。
「なあ……さっきの、仲良いん?」
「さっきの?なんの話??」
「やから、鈴木に頭撫でられてたやん」
「鈴木?あの人鈴木君って言うん?」
頭を撫でられていた、というのはさっきのことだろう。だから私が思い浮かべている人に間違いないのだろうが、どうにも顔と名前が一致しない。ああ私ってば他人に興味なさすぎや。
「いやいや、クラスメートやん、もう半年以上の付き合いやん」
白石も、本気で言うてるのと続きそうな勢いでつっこんでくる。
「……ソーデシタネ」
「気安く触らせたりなや」
まあええけど、と続けて放った台詞に「おとんか」とすばやく反応してしまった。
「お父さんになった覚えはないけど嫌な気持ちになりました」
「あーそうですか」
ていうか、さっきから何めんどくさいな。私ばっかりに本音さらすんやから。まるで眼中にないからと言われているようで悲しくなる。なげやりで返事をすると、なんでわからへんかなとため息をつかれた。
「さわらせたくないやん」
「なにを?」
「好きな人、他の奴にさわらせたくないやんか」
「さっきから話の流れつかまれへんのやけど……恋愛相談とかのらんよ」
なんで好きな人の恋愛相談受けなあかんねん。そう言いたかったのに、心臓がきゅうって小さくなって苦しい。
「もー何でわからへんかな」
白石って私には感情隠さない。隠す必要もないか、自分を嫌ってる相手に。それにしてもこんなにイライラしやすい人だったかな。少なくとも私の前以外では見たことない気がする。それだけ私と相性が悪いんだろう、そう思うと自分のことを棚に上げて凹んでしまう。
「鈴木が!みょうじさんを!触っててムカつきました!」
鈴木が私を触っててムカついた……?
手をぎゅっと握って、私をまるで睨み付けるように見てくるその顔は真っ赤だった。もうすぐそこに保健室の扉があるというのに、開けようという気配はない。
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