「んーまぁうちのと合わせれば何かと作れそうですね」

無事家に帰ってきて、古田の家の冷蔵庫を覗いた有馬は自分の家にある食材を思い出しながら唸った。

「あ、おう」

対する古田はリュックを置くなり部屋の中を行ったり来たりと繰り返していた。

「じゃあ、とりあえず俺も一回部屋戻って冷蔵庫…ってさっきから何してるんですか?」
「あ、ああ、いや…その…」
「…なんですか?」
「えっと、その…」

なかなかものを言わない時の古田は何か言いにくいことを隠しているときだというのはもう知っている。

「…それは、俺には言えないことですか?」

先ほどまでの棘のある物言いをやめて、できるだけ柔らかく言う。そうすると有馬が思った通り古田が唸り始める。そして。

「えっと…その…昨日のこと…だけど…」

有馬が思った通り口を開いた。―――思っていた内容とは違ったが。

「俺を、その、す、すす、す…好き…っていうのは、その…
らいく…なのか…ら、ら、らぶ…なのか…」
「…本気ですよ」
「本気…っていうのは…えと…」
「でも。返事をもらおうなんて思ってませんから」

明らかに目の合わなくなった古田に有馬はいつもと同じように笑いかける。

「さすがにそこまで迷惑はかけません。これからも今までと同じように接してくれれば、それだけで十分です」
「有馬…」
「俺が好きなのは、いつもの優しくて、ちょっとバカな先輩ですから」




「…俺はさ!!」

自分が何かを言いかけて、しかしそれはインターホンの音にかき消された。

「は、はーい!!」

自分は今何を言おうとしたんだ。
それがわからないまま、しかし心臓がどくどくと打つ中、古田は玄関へ向かった。

「はー…い…」

が、その疑問も玄関に立っていた人たち―――安達とれなを見て一気に吹き飛んだ。

「え…え…?」
「その、たまたま…陽にいの家に行こうとしたら会って…」

そう呟くれなと安達の手元にはスーパーの袋。

「古田さん?誰が来たん…」

そこに有馬も現れて古田は嫌な汗を自分がかいていることにも気が付かないほど頭を回転させた。
れなと安達は驚いたように有馬を見ており、有馬も驚いたようにれなと安達を見ている。







「あ、えっと…と、とりあえず…二人も…お茶して行く…?」



そんな中で古田は一番してはいけない選択をしたのだった。


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「…」

「…」

「…」

「あの、やっぱり俺も何か…」
「「「古田(さん・くん)は黙って座ってて(ください)!!」」」
「…はい」

The・圧力。
いくら幼馴染とはいえ、同期とはいえ、先輩とはいえ、今の彼ら彼女らの言葉に反抗する力は古田にはなかった。

なぜか三人で夜ごはんを作ることになり、なぜか古田は座っていればいいということになり…そしてそうなってから早一時間。必要最低限の意思疎通だけが響くこの空間にもそろそろ苦しくなっていた。

そろりそろりと椅子から降りてそうっとテレビのリモコンまで這いよる。片手片足での無音移動はなかなか難しい。ちらりと後ろを見ればまだ三人ともまだ気が付いていない。
…なんかスリリングでちょっと楽しいかも。なんて心の中で小さく呟く。

「…」

リモコンまであとちょっと。後ろからいい匂いがしてくる。もうすぐ夕食。


「…古田さん…?なにしてるんです?」


あと一歩。そこで古田のチャレンジは強制終了を迎えた。




「っうま!!これめっちゃうまいんだけど!!れなが作ったんだよな?さっすがれな!!」
「それ作ったの安達さんね」
「え、あ、え…ご、ごめん…」
「…古田さん、お茶おかわりいります?」
「あ、おう、悪いな有馬…」
「わたしがいれてくるよ」
「あ、安達…サンキュ…」

これほどまでの生き地獄を今まで経験したことあるだろうか。
自分が話さなければ誰も話さないのだが、その会話も先ほどから妙に空回りしている。

「はい、陽くん」
「あ、ありがと…」

目の前に置かれたお茶が呑気にゆらゆらと揺れる。お前は呑気だな、なんて。お茶相手に八つ当たり。

「古田さん、もうご飯良いですか?」
「あ、うん、大丈夫」
「じゃあお茶なんか睨んでないで、あったかいうちに食べちゃってください。今日珍しく遅いですよ」

なんだろう、この気恥ずかしさは。

古田は有馬の言葉に小さく返事をしながら首をすくめた。
オカン気質のある有馬に淡々と世話をされるいつもの構図なのだが、女性がいる前でやられると妙に恥ずかしい。

彼女のいたことがないから分からないが、彼女がいたらこんな風に自分の世話をしてくれるのだろうか。例えば…。

そんなことを考えて古田は首を振った。


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「はぁ…つっかれた…」

れなと安達が帰った後のリビングで古田はソファーに脱力した。

「ほんとバカですね、古田さんって」

後片付けをしながら楽しそうに笑う有馬に、古田はふえ〜と頼りないため息を吐いた。今日ばかりはバカと言われても仕方がない。

「有馬もごめんなぁ…」
「何がですか?」
「気まずかったろ?」
「あーまぁ…でも古田さんの家ですしね。あそこで俺が拒否するのも違うし」

「ま、びっくりしましたけどね」と、有馬が続けて笑う。

「よかった…」

ふいに古田が発した言葉。それに有馬は頭にはてなを浮かべて首をかしげた。