episode01.26歳。男。彼女いない歴=年齢。
「…古田さん?」
「…」
「おーい古田さん?」
「…」
「ふーるーたーさーん!!」
「…おお…有馬…」
月曜日。
確かに週初めといえば誰もが嫌だろう。
それでも。それにしても。
「古田さん…どうしたんですか…?」
なんでこの先輩は机に伏せて動かないんだ。
有馬健―――古田の後輩である彼はそんな古田を前に首をかしげた。
この会社に入社して早一か月ちょっと。
古田の直属の後輩である有馬はほかの人より古田といる時間が長い。
そんな有馬でもこんなにテンションの下がっている古田は初めて見た。
「聞くな…」
「…え、え?」
「何も聞くな…」
「は、はぁ…」
机に伏したままの古田の表情は有馬からは見えない。
「えっと…とりあえずこれ…どうしたらいいですかね…?」
何があったかは知らないがとにかく仕事をしてくれないことには意味がない。
「ん…?ああ…それなら…俺が見てから部長に提出するからおれが預かっとくわ…」
「うわ…あ、すみません…ありがとうございます」
起き上がった古田の顔にはクマ。
思わず上がってしまった声を、有馬は咳と謝罪と感謝でごまかした。
こういう時でも先輩として仕事はしっかりしてくれる古田はいい人というか仕事におそらくプライベートなことを持ち込んでへこんでいる古田はいい人とまでは言えないのか。
「…やっぱり、どうしたんですか…?」
というより、ここまで凹まれてると聞くなと言われてもやっぱり気になる。
再び顔を机に伏せた古田が顔だけをこちらに向ける。
「お前も男だろ…察しろ…何も聞くな…」
「…あ、フラれたんですか?」
「そんな次元の話じゃねーよ!!」
「そ、そんな…次元…?」
ばぁんと、机を叩き、急に古田が立ち上がる。
自分の言葉に悪いところがあったのは認める。それはデリカシーがなかったかもしれない。
でも、それでも。
「お前には分からんだろうな!!」
「分からん…?」
「あぁ?顔良しだ性格良しだ。英語もできてそのくせ仕事もできるだぁ?んなやつに俺のことなんて分かるか!!いや…分かってたまるかってんだ!!だいたい…こんな性格も顔もいいやついる…?まじでマンガじゃねーんだから…」
「あ、あのあのあの!!ちょっ…ちょっと声…!!」
「あ?」
「声…でかいかなぁ…?」
そこではっとしたのかやっと古田は周りを見渡した。
向けられる目の数と、自分との温度差に気が付いた古田はちらりと有馬と目を合わせると、それとなく周りに頭を下げた。
「話は帰り聞くんで、とにかく仕事しましょ」
「帰り…ご飯行ってくれる…?」
「…あーもう、はい分かりました。行くから…!!今は!!仕事!!」
「…はい…」
こうなってしまうとどっちが先輩か分からないがこの構図が日常になりつつあるここでこの状況を不審に思う人はもういない。
「じゃあ今日は…去年末に対応させていただいたお客様のところに経過を聞きに行きます…」
「はい」
:
:
「でねぇ!?俺がぁ!!なんて言われたか聞いてくれるぅ!?『古田くんて友だちとしては最高なんだけど…彼氏としてはね…』だってぇ!!んなやつこっちから願い下げだっつのぉ!!」
「あーはいはいはいはい…ちょっと飲みすぎですよ」
「うるせぇ!!今日はとことん飲むんだよぉ!!」
「困るの明日の自分ですよ…!!」
月曜日の晩。まだまだこれから四日間仕事があるというのに居酒屋には二人の男の姿。
「お待たせしました〜追加の枝豆…えっ、なに、陽にいもうこんなに酔っちゃってるの?」
「あ、れなさん…すいません…」
そこに注文の品を届けた少女―――小松れなは注文されてた枝豆をどんっと机に叩きつけるとため息をついた。
「すいません…なんか、土曜日に同窓会行ったらしいんですけど、いろいろあったみたいで…ちょっとお酒飲むスピード止められなかったです…」
「あぁ、ううん!!有馬くんなんにも悪くないから!!」
心からすまなさそうにしゅんとなっている有馬に小松は両手を振った。
「れなさん、お水もらっていいですか?」
「あ、うん!!あー…あと、れなさんなんてやめてよ。有馬くんのほうが年上だし」
いつまでもすまなそうな表情の有馬に小松は無理やり話題を変える。
「あ、いやぁ…」
そんな小松の言葉に少し困ったように有馬は笑って頬を掻いた。
「なんか…れなさんって大人っぽいじゃないですか?こう…年下の女の子っていうより女性って感じがしてどうも…ね…」
「え、なにそれ…え、待ってめっちゃうれしい!!」
「すいません、偉そうに…」
「いやいや、有馬くんにそんなこと言われて嫌な気持ちになる人なんていないよ!!」
「ちょっとぉ?俺をぉ置いて話しすんなよぉ!!俺先輩だぞう!?」
と、そんな二人を割って入ってきたのは今日何杯目か分からないビールを手に持った古田。
「はいはい、すみません。で?そのあとどうだったんでしたっけ?れなさん、じゃ、お水お願いします」
「了解した…!!」
「なんだよぉ!!俺の知らないところで何の話してたんだよぉ!!」
「あーもう!!これ以上れなさんに絡まない!!れなさんバイト中!!」
月曜日という比較的静かな居酒屋で二人の声が響き渡る。
「有馬ぁ、きょー泊めてぇー」
「何言ってるんですか!!」
「俺もう眠くて帰れない!!」
「無理ですよ!!起きてください!!」
「はい、もう寝たー俺寝たぁ!!」
そんな二人の様子をもう一度振り返って見つめた小松は、今度こそ水を取りに厨房に戻るのだった。