次の日。

「…んっ…」

古田はあんなにもお酒を飲んだにもかかわらず比較的いい目覚めだった。

「…へっ…?」

(…ここ…どこ…?)

目覚めた場所は自分の家ではなく、知らない部屋だったが。




「えっ…え…?」

(お、落ち着け俺…思い出せ…昨日は…?昨日は…有馬と飲みに行って…行って…?それで…?そのあとは…?)

頭では昨日のことを思い出しながら、目は部屋を見渡す。

白と黒で揃えられた部屋。
何度見ても知らない部屋だ。多分女の子の部屋ではない…はず…。…そう思いたい。

服を確認すれば上だけ自分のものではないトレーナーに着替えている。下はスーツのまま。

(…と、いうことは、大丈夫…って違う!!今はそこじゃない!!)

「あ、起きました?」
「へぁ!?」

思いもよらず突然かけられた声に、古田はベットの上で文字通り飛び上がった。

「…あ、へ…あ、有馬…?」
「ふふっ…なんですか今のヘンな声」

声の先―――ドアの方を振り返ればそこには有馬がいた。

「あ…昨日の事…覚えてません?」
「う、うん…ごめん」

はぁ、と、ため息をついた有馬にもう一度謝罪。

「れなさんのバイトしてる居酒屋行ったのは?」
「…それはさすがに覚えています…」
「二回目の枝豆が来たのは?」
「…あ、いや、えっと…」
「…はぁ、そこすでに覚えてないんですね」
「す、すみません」

ベットの上で正座する先輩とため息をつく後輩。
会社の中ではなく完全プライベートなこの空間で二人を見て古田の方が年上だと思う人はいないだろう。

「はぁ…まぁもういいですけど…思い出してる暇あったら下来てください。会社遅れますよ。もううち家族みんな出て行ったんで」
「ああ、悪い…ありがとう…」

もう今日は一日有馬の言いなりになるしかない。そう思いながら恐る恐るベットを降り―――

「…え…?か、家族…?」

―――ようとして。古田は足を止めた。

「え、家族…ってことは…ここ…」
「…やっと気が付きました?ここ俺の実家です。だから泊まりに来るのいやだって言ったんですよ」
「え、あ…」

(実家…実家…)

「…あぁ、古田さんの事は同僚としか言ってないんで、先輩だとはうち誰も…」

有馬が何か言っているが、問題はそこじゃない。
ベットから滑り降り、そのまま流れるように正座。

「…古田さ…?」
「悪かった…今日は何でも言うこと聞きます…」

そしてそのまま土下座。

「えっ!!まっ…!!古田さん!!顔あげてくださいよ!!大丈夫ですから!!」
「いや…実家って知らなくて…家族にも迷惑かけただろ?」
「いやいや!!大丈夫ですって!!」
「あーすまん…!!」
「あ、謝るなら!!っていうかいうこと聞くならとりあえず下降りてください!!遅刻します!!」

有馬に腕を引かれ古田はふらふらと立ち上がった。


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「すっげぇ…!!」

サラダにスクランブルエッグ、パンにスープ…
下に降りてみると机の上には豪華すぎるほどの二人分の朝ご飯が用意されていた。

「今日、早く目覚めたんで、家族の分も作ったんです」
「え、お前料理できんの?」
「親が昔から共働きで、弟妹の分のごはん作ってきたんで。…まぁ、そんな大したものは作れないんですけど」
「いやいや…大したもの…って」

有馬の言葉にもう一度机の上を見てみるが、古田からすればどう考えても大したものである。
サラダには彩でプチトマトまで乗っていて、これのどこが大したものじゃないになるんだろう。

「ほら、食べましょ」

オレンジジュースをコップに注いできてくれた有馬がにこりと笑って前の席に着く。

「あ、おう…いただきます…」
「いただきます」

どれから食べようと少し箸を巡回させてからスクランブルエッグを一口。

「あ…うっま…」
「しょっぱくなかったですか?」
「うん…めちゃくちゃうまい…!!味付け完璧かよ!!」
「よかった」

古田の反応に満足したのか、有馬は少しだけ料理に手を付けてすぐに立ち上がった。

「ん?有馬食べないの?」
「食べますよ。先に古田さんのシャツ取って来ようと思って」
「あ、シャツ…」

そう言われて自分が上だけ自分のじゃない服を着ていたことを思い出した。
でも自分で着た記憶はない。

「あ、あの、有馬、これさ…」
「先言っときますけど、古田さん自分で脱いだんですからね。俺の部屋で。風邪ひいたら困るしと思って上からそれ被せたんですよ」
「お、おう…そうか…ありがとう…」
「それから、あとから言われてもあれなんで先言っときますけど、僕隣りの弟の部屋で寝たんで。弟丁度昨日帰ってこなかったんで。だから早起きしたのもほんとたまたまですし、ちゃんと寝てますからね」
「おう…あざす…」

(…なんてよくできた人間なんだ…)

心の中で一つ感嘆のため息。

「おれもう大体用意できてるんで、気にしないで食べててくださいね!!」
「あ、はい…」