再会につきお伝えしなければならない


これは、ただの種明かしというか、独白というか、つまり、私のチートについての告白であるよ。と、前置きをする。

第二次世界大戦を終えてなお、軍閥割拠が、英国、米国、独国、露国を中心に巻き起こっていた。日本も例外ではなく、だからこそ国内の揉め事に関しては政府も危惧を抱いているものの、自らの支持率を落とすわけにもいかず、国民の意思を聴くことを優先した結果、誰も止められない、そんな状況だった。しかし内乱自体は日本だけではない。露国だって共産主義者による運動が大規模なテロルとして行われていたり、米国も英国も繁栄の裏にある影が拡大し始めていた。

ドイツ帝国は、アダムズ・ヒットラー亡き後も、その意思を継ぐ指導者により、強い国を、第一位の国をと、日夜研究と実験を繰り返していた──第三次世界大戦も、起こりうる。そんな危機感と、それによる世界の覇権の奪い合いに勝つために、研究者たちは朝も夜も、人情も人間性も忘れて。

「百舌の状態は」

「循環系異常無し、神経系に異常見られます。脊髄損傷かと」

「脳回路とのコネクトが困難になる恐れがある。直ちに運べ。部屋番号四」

「Sir,リヒター博士」

日本からの空輸を経て運ばれたのは、国内最大の研究所。政府のお目かけを受けるここは、資金も湯水のように溢れかえり、最先端の研究が行われていた。日本の病院にも話は通してあるから、私は大した怪我にならなかったことになっていたが、冗談じゃない。ふつうあんな所から落ちたら死んでるから。どこかしら折れるから。薄く開いた目線は、固定されて動かせない腕を見つめる。肌に刺さるのは点滴のように見えるのだろうか?微弱な電磁波を体内に流し、異常を見付ける検査機とは、誰も気が付かなかっただろうか?体が文字通り痺れてしまって、まともに言葉も話せない。異常のあるところに電磁波の帯が触れると、言いようもない激痛が走り、そして体が跳ねる。これじゃあ、ただの拷問だ。手早く服を剥がれ、冷たい台に乗せられ、周りに人だかりができる。誰も手術着ではない。白衣だった。

「馬鹿か。脊髄損傷だろう。うつ伏せにしなさい」

この研究所でも、ある部門で一番の実績と実力を持つ、リヒター博士が顕微鏡を頭に装着しながら言う。焦ったように私の体をひっくり返すと、博士の手が背中に触れた。

「まるで本当に人間の体だ、完璧に皮膚部も癒着してしまっている。幹細胞の働きが十分なのは良いことだが、ああ、これは剥がしにくそうだ──メス」

博士は手早く背中に刃を入れると、べろん、と大きな背を覆っていた皮膚片を剥いた。ときどき聴こえる、ぶちっ、という不吉な音に目を閉ざす。骨盤の少し上あたりに剥き出しの背骨をなぞられると、形容し難い痛みに脚を跳ねさせた。

「此処か。四肢と生殖器には義神経を通したが、百舌、どうだ、痛覚は反応するか」

「い、いたい、いたいです、博士ぇ……かなり……」

「頸椎四番の骨折。金属製の骨に取り替える。神経は今から修復に入るから、そうだな五時間くらいか」

「長い、博士」

「文句言うな。眠らせてやる」

そう言うと、流れ込んだシステムのせいですぐにフェードアウトする意識のなか、私は自分の体をそっと撫ぜた。


このからだは虚構だ。

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