夢見てるのはどちらなのか

「いいえ、無理じゃありません」


 無理だなんて口にはしなかったのに、時寧ちゃんは静かに首を振る。


「私は時寧。時空を操作できる力を持っているんです」

「ん?」

「名付け親は、たまたま時寧と名付けただけのようです。ですが、私は確かに時寧なのです。時操りと、日々の寧日を願うという、そんな名前なんです」


 き、聞いてもいないのに語り出したぞこの子。どこまでも私そっくりだな時寧ちゃん。でもほどほどにしとかないと私のようにぼっちになるぞ。


「私が産まれたことで、お父さんの持っていた力も私が受け継いでしまいました。そのせいで、お父さんはもうこの世界にくることができなくなってしまいました。お父さんが持っていた力がなくなったことにより、お父さんとお母さんが出会うはずだった流れが完全に消えてしまいました。だから過去は消えてしまったんです。世界から、なかったことにされたんです」


 なるほど、ただの独り語りじゃなかったのか。今時寧ちゃんが話したそれが、時寧ちゃんが最初に話した妄想の根本に繋がるわけか。なかなか作り込まれた話だな。真偽はスルー。


「なので、お母さんが許してくれるなら、私がお父さんの世界にお母さんを連れて行きたいんです」

「はい?」

「私が、お母さんを連れて行きます」


 え? あ、嘘マジ……? いや、え? え、嘘?
 今の今まで真偽スルーで通してきたけど、自分の身に何かが起こるのだとなれば話は別。さすがに真偽不明なトリップをしますか?という質問に即答できないわ。本当のことなら私が怪我するかもしれないし、嘘なら私の心が怪我する。


「ま、待って。待ってね、ちょっと待ってね。えっとその時寧ちゃんのお父さんっていうのは、私の夫に当たる人間なわけだよね?」

「はい、そうです」

「具体的にはどこの誰なの?」

「それは……私には、わかりません」


 ええええええ嘘でしょ。いやでも確かに時寧ちゃんの持ってる情報の中に父に当たる人間のことはなかったな……えええなんでえぇやだよお怖面白い。リスク高すぎ。いいねぇ。
 ただし妄想の話だったらな。夢小説サイトでも持てば良いと思うよ時寧ちゃん。


「でも私、本当にお母さんとお父さんが愛し合っていたのなら、きっとまた良い仲になれると思うんです!」


 やだこの子私より夢見てる。少女漫画でも読んだ? むしろ夢小説でも読んだの?ってくらい夢見てるわ。

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