過去の一部を垣間見る
だからと言って別に私に何か迷惑がかかるってわけではないんだけど、トリップするかしないかを判断するための材料がない今、私はどう判断することもできないわけで。
「……え、と。とりあえず聞く、けど……私の夫はどこの世界にいるのか、わかったりするの?」
「現時点ではわかりません……すみません」
「なら、もしトリップしても夫には会えない可能性があるってことなの? 夫のいない世界に行く可能性もあるってことなの?」
もしそうだとしたら行かないの一択になるよ。私は面倒事は好きだけど、それは私が得る経験が増えたり、人間的に成長できる機会でもあるからだ。あと面白さの追求でもある。
無意味そうな面倒事は遠慮したい所存。
「あ、それは大丈夫です。お父さんからもらった力の残骸を追う形で時空を移動する予定なので、世界にまではたどり着けると思います」
「その世界に着いたらわかったりする?」
「行ってみないとわかりませんが、可能性はあります」
うーん、これは……判断しづらい。その話は本当なのかと率直に聞きたいところだけど、時寧ちゃんがちゃんとした答えをくれるとも限らない。例えば時寧ちゃんは本当のことだも思い込んでいるけど実は嘘でした、時寧ちゃんも騙されてましたってことが、あり得ないとも限らない。
無意味そうなことはしたくない主義の私は、無意味そうであれば無意味でなくても質問する程度のこともしたくない。無意味かどうかの判断は私の頭の限界によって左右されるわけだけど。少なくとも今「その話は本当ですか?」と質問することに、意味は無さそうだと私は考える。
「時寧ちゃんはさ、私と時寧ちゃんのお父さんが仲良くなるのを見て、それからどうするの?」
「えっ?」
「仮に私がまたそのキャラと仲良くなって、愛し合って、それを見てどうするの?」
この質問で満足できる答えが返ってこなかったら断ろう。考えるのも面倒になってきたから時寧ちゃんに丸投げだ。
時寧ちゃんは、少しキョトンとして、しかしすぐに苦笑いを浮かべて言った。
「家族の愛に包まれたいと思うことに、理由なんてないですよ……」
心臓が少しキュッとなった。今の言葉を、どこかで聞いたことがあるような気がしたからだろうか。そう遠い昔でもなかった気がするし、ずっと遠い昔のような気もする。誰が言っていたんだっけ。誰だっけ。
思い出せそうなのに、その先を全く思い出せない。これが消えた過去というやつなんだろうか。