神様とお母さん
彼女こと神様の名前は、時寧ちゃんと言うらしい。私と全く同じパーツと、バランスを持つその顔で、遠慮がちな弱々しい笑みを浮かべながら彼女は言った。
「すみませんお母さん。こんな、お茶まで出させてしまって」
そう、お母さんと。私のことを、お母さんと。彼女はそう言った。どう反応したらいいかわからず、最初のお母さん発言をそのまま流してしまったせいで時寧ちゃんは尚も私をお母さんと呼ぶ。なるほど顔が似ていますからね……って私まだ妊娠するための相手すらいないんですけど。
そもそも、時寧ちゃんが本当に私の子供だとしたら私は何歳で産んだんだっつーの。10から5歳くらいで産んでることになりそうだよ。なんだその楽しそうな話。ありえねーから。
「……えっと、時寧ちゃん。さっきから私をお母さんって呼んでるけど……私、君のお母さんなの?」
いやしかし、確か時寧ちゃんは神様だったはず。そういう設定だったはずだ。真偽はこの際スルーだ、こんな面白い話に水差してたまるか。嘘だったとしてもどんな舞台設定を用意してるのか気になるところ。
「え? あ、はい。そうです。私は、貴方から産まれました」
ふむ、やはり私は時寧ちゃんを産んだという設定らしい。つまり、私は神様を産んだということでファイナルアンサーなんだろうか。それともただのガバガバ設定なだけなのか。ふぅんと流すような返事を返すと、時寧ちゃんはわずかに目を泳がせた。
「……あの、信じてもらえるかわからないんですが」
そんなの今更だから気にしなくて良いよ。
「私、お母さんの能力そのものなんです」
「ん?」
「お母さんは、神様に作られた実験材料だったんです。偶然別の世界から来た人間とお母さんは仲良くなって、私が産まれるんです」
あれれちょっと待って何それ何それ。えっと、私の子供は神様で、その神様が言うには私自身が神様に作られた実験材料だったと。じゃあ時寧ちゃんて何? 実験材料から産まれた神様ってことなの? それ神様って呼べるの?
まぁ神様の定義とか知らないんだけど。
「あ、もしかして未来の話? 時寧ちゃんはタイムスリップしてきた子?」
「いいえ。敢えて言うなら、私は過去からきてます」
うわどうしよう、意味不明度が増した。
「実験材料だったはずのお母さんが、プログラムされていない行動を取ったために、私が産まれる直前の過去が消えてしまったようなのです」
「……ごめん、さすがに意味がわからない」
「ええと、あの……す、すみません。私にも、自分の存在と貴方がお母さんだということしかわからなくて、断片的な説明しかできないんです」
あ、あぁ。過去が消えてしまったとか言ってたもんな。
でも、それならなんで私が母だってわかるんだ。