時寧ちゃんのお願い

「厳密に言うと、私がわかっていることはお母さんの神に関与している者としての証を私が受け継いだということと、あなたが私のお母さんであること、それから、私が産まれる直前の世界が消えているということだけなんです」

「ふんふん、時寧ちゃん自身が持つ情報も少ないのね。でも、その状況でなんでそんな情報を持ってるの?」

「それは、私にもよくわかりません」


 縮こまった時寧ちゃん。言わんとしてる話自体はまぁ、なんとなくわかった。つまり私が時寧ちゃんを産んだという過去は消えていて、神様の仲間入りした時寧ちゃんだけその影響を受けていなかったってことだろう。

 で、だからなんだって話。
 ていうかそれを私に伝えてどうするんだって話だ。そのことで何かやらなきゃいけないことがあるわけでもなし、なんだかただの妄想語りを聞いてるだけな気がしてきた。そのタイプの面倒事ならネットで腐る程やってるから今はいいです。あ、でもできれば私がネットを卒業したら来てください。たぶん暇してると思うんで。


「中途半端な知識ってのも大変なんだね。それで、時寧ちゃんこれからどうするの?」


 時寧ちゃんの話を聞いた限りだと、時寧ちゃんの身に危険が迫ってるとかそういうわけでもない。私が必要だというわけでもない。ただよくわからん妄想話というだけで真偽を確かめる必要性もない気がする。不法侵入なのは気にならない派。田舎あるある。嫌いな人だったら訴えて金もぎ取ってやるんだけど、鍵を閉めきってるこの部屋のど真ん中に突然発生した自分似の女性って、訴えてどうにかなるもんなのだろうか。
 あくまで信じてる体を演じつつ時寧ちゃんの目的を聞き出そうと声を掛けると、時寧ちゃんは少し俯いて、眉尻を下げた。


「……そのことについて、あの、お願いがあって」


 お願いとな? もしかして時寧ちゃん、宿無し金無しだったりするんじゃない? 私と似てる顔だからこうして妄想話を聞かせて「お母さんと暮らしたい」とかそういう話に持っていきたいんじゃないかな。ただの邪推だけど。
 もしそうなら、申し訳ないがお帰りいただこう。できることなら一緒に住んでみたいところだけどね。ここまでそっくりな人も珍しいし、私自身に拒否したい気持ちはない。が、いかんせん金がないんだよね。とても残念ではあるんだけど、こればっかりは私の気持ちどうこうで済ませられるもんじゃないし。時寧ちゃんの食費とか光熱費とか。生活費完全割り勘の宿提供だけなら何とか、なんて考えていると、時寧ちゃんは両手で拳を握り締めるという私と似た仕草で決心を露わにし、信じられないことを言ったのだった。


「わ、私、お父さんが欲しいんです!」

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