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「こんな所でアビシャグに出会えるなんて、僕はツイてるね。やぁどうだいアビシャグ、今から僕と健全な投資活動について語り明かそうじゃないか」
「それアビシャグと話すことか?」
食堂の隅っこで1人プリンをつついていたら、ダビデ王が爽やかな表情で全く爽やかじゃない話題を持ちかけてきながら目の前に座った。昼時なので周りにも人は居るのに、わざわざ私に話しかけて来たのだから何か用があるんだろう。
「お金ありません」
「残念だね、それは残念だ。投資資産は何よりも大事だよ。まずは元手がないと始まらないからね、どうだい?いい話があるんだけど」
「エミヤママ呼びますよ」
「冗談さ!」
両手を広げて声高に叫ぶ推し鯖にため息が出てしまった。歴史的に大好きな英霊なんだけど、どうにも対面して話すと心が揺らぎそうになる。ロビンフッドとかに。
「それは聞き捨てならないな。ところで僕も緑のアーチャーなんだけど、緑茶と呼ばれてもいいと思わないかい?」
「呼ばれたいんですか?」
「愛称があるっていいよね。文字通り愛されてる感じがするだろう?僕にも何かそういったものを付けてくれないかな!」
ワクワク、といった表情でこちらを見てくるダビデ王をしり目にプリンを口に運ぶ。めんどくせぇ…適当に思いつくまま言ってみる事にした。
「ミドリマン」
「微生物っぽいね!」
「爽やか守銭奴」
「僕は守るだけじゃなく賭けにも出れるよ!」
「杖殴りアーチャー」
「アーチャーなのに弓を!?」
「アーチャーなんだから弓使うでしょ」
思わずツッコミを入れてしまって、どうにも負けた気がする。けっこう酷いことを言っているのは分かっているので、ニコニコと楽しそうにしているダビデ王を見て安心した。
「いやぁ、アビシャグと話をしているんだからね、不快になる事なんてないよ!」
さっきから見透かしたように会話をされているので落ち着かない。慣れない感覚にどうすればいいのか分からず無言でいると、不意にダビデ王の背後に人影が現れた。
「ちょっとおにいさん、こちらへ…」
ガシッとダビデ王の頭が鷲掴みされる。険しい表情のドクターが、珍しく怒った感じで立っていた。
「見つかっちゃった」
てへっ。とおちゃらけるミドリマンがそのままズルズルとひきずられていった。「もぉー!だからあなたは黙っててくださいよ!」「僕はただ彼女とお話してただけだよ?」と聞こえたが、それ以上は離れていって聞き取れなくなってしまった。
「…………緊張した」
「へぇ。オタクもそういうことあんのね」
ぽそっと独りごちると、聞かれてしまったらしい。ロビンフッドがニヤついて立っていた。
「緑茶ァ!」
「はいはい緑茶ですよ」
ヒラヒラと手を振って、言いたいことだけ言って去られてしまった。ちくしょう、なんだか今回負け越しだぞ。
「ちくしょう!ちくしょーーー!ママーー!!」
「誰がママだ」
仕方ないのでエミヤに泣きついたが、同僚に引き剥がされてぺいっと管制室に放り込まれてしまった。仕事しろと怒られた。ちくしょう…。