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「やぁ。今日は嫌いなものについて話そうか」
出会うなり、マーリンはそのまま昨日の続きのようにそこにいた。丁寧に紅茶まで淹れてある。あと、その横に可愛い水色とピンクのマカロンがついていた。
「可愛いだろう?喜ぶと思ってね」
可愛い。口に入れると、サクサクして中はとろっとしていた。甘くて、少しローズの香りがする。
美味しい。それで、なんだっけ。嫌いなもの?
「好きなもの、ときたら嫌いなものだろう?何かあるかい?」
どうだろう。そう言われても、これといって、あれが嫌だっていうのはないかもしれない。
「おや、そうかい?」
マーリンは?
「そうだね、なら私から答えようか。バッドエンド。これが一番嫌いかな」
悲しい話とか、辛い話が嫌い?
「いや?物語の間にあるのなら別に?大切なのは終わりのことさ。始まりも途中も、最後に素晴らしい景色があるのなら、そこに何があろうと別にいいんだ」
それ、自分があんまりそういう目にあったことが無い奴が言う台詞だよね。
「まぁね!私はね!」
うわー。
「いやいや待って欲しい。ほら、終わりよければすべてよしって言うだろう?そのためなら私だって多少の努力も惜しまないしね。それにそういうものを作れるのは、ヒトの特権だからね」
なら、全部ハッピーでもいいじゃん。
「それで上手くいくなら私もそれでいいと思うよ?でも、美しいラストのために必要な舞台もあるだろう」
手に取って眺めていたピンク色のマカロンをマーリンに見せつけるように顔の前に持つ。突然マカロンを向けてきた私に、マーリンは首を傾げた。
「なんだい?」
そのままマカロンのクリームを挟んでいる上のメレンゲと下のメレンゲを両手でぱかりと分離させた。そして断面を、マーリンに見せつける。
「?」
マカロンは美味しい。そして可愛い。ok?
「OK」
頭のてっぺんから、おしりまで完璧な可愛さ。そして中のクリームまで、徹頭徹尾美味しいと可愛いが詰まっているのだ。
「なるほど?つまり?」
つまり、可愛いが集まれば、究極の可愛いになる。すなわち、美しいが集まれば、究極の美しいになるのだ。QED。
「ふ、ふふふ…うん、なるほどね、ふふ」
だから、全部がハッピーな話もいいじゃん。きっとそれも悪くないよ。
「んふふ、そうだね、そうかもしれないね、く、ふふふ」
いやいつまで笑ってんの。
「いや、ちょっとあまりにも間抜けな例えで」
…もういい。帰る。
「えぇっ。待って待って、あ、ちょっと!ごめんごめん、ごめんって、ふふふ」
そこで、4回目の会話は終わった。