9

「世界を救えるのは君だけ……なんて言われたら、名前ちゃんならどうするかい?」
いきなりだな。
向かい合ったテーブルの向こう、マーリンは肘をついてこちらを見ながら微笑んでいる。相変わらず、音もなく耳鳴りもしない。ただ差し込む淡いピンクの光だけが世界を照らす、絵画の中みたいな光景だった。
「例えば…1人。君はこの世界に取り残された、たった1人の希望なんだ。この世界は悪い王様が支配していて、そいつのせいで、もうすぐ世界は滅んでしまう!」
RPGみたいだ。
「うん、そうだね。伝説の剣を引き抜いた、伝説の勇者さ」
なれる気がしない。剣なんて振ったこともないし、魔法が使えたとしても、頭もそんなに良くないもん。
「そう。そんな君が、世界を救えるのは君だけ、と言われたら、どうする?」
……頑張るよ。頑張れるだけ。
「うん、君はいい子だね。よしよし」
なんなんだ。ご機嫌そうにこちらの頭を2回ぽんぽんと叩いた後、マーリンは私の目を見つめながら黙る。私のことを見ているようで、どこか遠くを見るその視線は居心地が悪い。
「じゃあ…もしそんな子が本当に居て、今この世界を救おうとしているんだ、と言ったら?」
マーリンの意図は分からない。というより正直、出会ってから少しも分かった時などないんだけど、どうせ全て暇つぶしなんだと思う。

普通に寝て、食べて過ごすよ。そうして救われるのを待つかな。
「そう、それがいい。そして幸せに眠りについて、また明日も私とお話しておくれよ」
そこで、9回目の会話は終わった。