妖精は、聖杯を手に入れました。
しかしその妖精は、ただ運が良かっただけでした。
次々と同族同士で殺し合い消えていく仲間たちを尻目に、ひとり、洞窟の中で震えていただけです。
弱っちくて力もない、死んだ者の記憶を細々と食べるだけの妖精なんて、みんな気にもとめていなかったので。
そのうち、その妖精がおずおずと洞窟から顔を出すまで。
みんな殺しあって、みんないなくなってしまったのでした。
ボロボロになった世界にも、聖杯はありました。
みんないなくなった世界で、妖精はさまよい続け、ようやく見つけました。
しかしその頃には、体はボロボロで、
ちぎれた羽根では飛ぶことも出来ずに、
力なく、地面に倒れ伏しました。
その世界には人間がいなかったので、妖精はいつも外の世界の記憶を食べていました。
おそらく妖精だけが、この世界で唯一、ここがおかしな場所だというのを知っていましたが、知っていたところで何も出来ないので、意味がなかったのです。
たぶん、ここはもうすぐ消えてなくなります。妖精は知る由もありませんが、多くの微小特異点と同じく、何もせずとも最初から消えてしまうものだったので仕方がないのです。
それでも、妖精はここで生きていました。
なので、願いました。
でも妖精は、願い事をするのがはじめてだったので。
生まれて、はじめてだったので。
その願いはとても謙虚で。
拙いお願いすぎたのでした。
夢でもいいから、誰かと、名前みたいに、会話がしたいです。