雪だ。ふわふわと空から降ってくる冷たい雪の結晶は、夜に降り出して朝にはあっという間に積もってしまった。玄関を開ければ誰も足を踏み入れた跡もない、まっさらな粉雪が一面に広がっていた。
「さっぶ…」
コートにコートを重ねても寒い。雪道用のブーツを履いてザクザクと雪をかき分けて進むも、こんなんじゃ全然進まない。冬の北海道の田舎舐めてた。
「雪かきしないと車出せないからなぁ」
「んぶぶ」
「お前なにやってんの」
積もった雪に顔面から突進して行った灰ジュナオを引っ張りあげると、ぼたぼたと雪の塊が落ちる。髪にひっついた粉雪を手ではたくと、灰ジュナオはぷるぷると犬のように首を横に振った。
「つめたい」
「そりゃな」
ただでさえ寒いのに雪に突っ込んだせいでほっぺがキンキンに冷えてしまっていた。アホだなぁと思いながら両手で包んで頬を温めていると、その前をふよふよ白ジュナオが横切った。そしてじっ…と積もった雪を見つめ、おもむろに手で一掴みすると、それを口に運んで食べた。
「あまくない」
「そうだね…」
「シロップを、かけたほうがいい」
「やめなさい」
玄関の開く音がして、皆より遅れてジュナオがこちらにやってくる。広がる雪景色をキョロキョロと見渡していた。
「わぁ、すごいですね、一晩でこんなに積もるなんて」
「そうだな。今はもう晴れちゃったけど、全然溶ける気配はしないな」
「溶けなくていいじゃないですか」
「車が出せないんだよ。雪かきしなきゃ…」
そう言うと、ジュナオはぱちぱちと瞬きをした。
「雪を、どかせばいいのですか?」
「うん。雪かき用具はあるけど、時間かかるだろうなこりゃ」
除雪機買うかな、と考えていると、何やらジュナオズがリーダーのジュナオの呼び掛けで集合してひそひそと作戦会議を始めた。一言二言交えた後、こくりと全員頷くと、ジュナオが俺の方にやってくる。
「マスター、少し距離を取ってください」
「?、えっと、どのくらい?」
「もう少し後ろです、ええ、もう少し……はい、そこで大丈夫です」
ジュナオが前方に広がる雪の絨毯へ顔を向ける。そして右手を胸あたりに掲げると、眩い虹彩がその手のひらへ収束しだした。
「えい」
劈く耳鳴りと稲妻のような光が広がり、咄嗟に目を覆った。そしてすぐに光が消え、俺が顔を上げると、そこは更地だった。
「……?……??…????」
「マスター、これでどうですか?」
ジュナオが小首を傾げて聞いてくる。何が起きたかさっぱり分からない俺は放心したまま、(うん、まぁ、よくわかんないけどいっか)と思い頷いた。
「よろしい」
にこにこと嬉しそうにジュナオが笑った。うんうん、笑顔が眩しいね。家の前は更地になったけどね。
「クリスマス、ですか?」
「そう。日本でも人気の行事なんだよ」
調子に乗って買ってしまったクリスマスコーナーにあったパーティグッズを広げると、しげしげとジュナオたちは手に取り眺めだした。白ジュナオが袋を裂こうとしていたので止めて(十中八九中身ごと引き裂くから)中に入っていた鼻の下に付ける白い付け髭を取り出してやる。ぺたりとその鼻の下に付けると、白い髪とマッチしてやたらと似合っていた。
「?おおきい」
灰ジュナオは綺麗に袋から出した、巨大なプレゼント用の靴下を片足に入れてきょとんとしている。麻袋くらい大きいので、灰ジュナオが靴下に食われてるみたいに見える。もう一足ないことに気づいて、何故…?という顔でこちらを見ていた。見られましても。
「日本ではクリスマスは、何をするんですか?」
「何って…あー…」
一部では性夜だなんて言われてるほどのカップル行事だとかは口が裂けても言えないな。無難にケーキを食べたり、プレゼントを贈ったりすると答えれば、ジュナオは「プレゼント…」と神妙な顔つきになる。
「いやいや、別に欲しいって言ってるわけじゃないからな。大体あげるとしたら俺からお前たちにだし」
「え?そ、そうですか…」
何故かしゅんとさせてしまった。そのままジュナオはむむむ…と言って何か考え込んでいる。
「とりあえずご飯にするか。調子乗って買ったチキンとケーキあるから」
「…は、はい!」
呼びかけるとジュナオはキッチンへひと足さきに飛んでいった。俺も向かおうと立ち上がると、目の前に付け髭をつけた白ジュナオがやって来た。
「……」
「……」
「…ふぉっふぉっふぉっ…サンタだ…サンタじゃ…ぞう…」
「……サンタさん…」
「……」
「ご飯食べに行きましょうね」
「ふぉっふぉっふぉっ…行く」
靴下を今度は頭から被りだした灰ジュナオを引っ張って、キッチンへ向かった。
「はっ…くしゅん!」
ヤバい、風邪引いたかな。少し身震いして腕をさする。昼間ジュナオたちと雪だるま作ってはしゃいでしまったからかもしれない。早く寝ようと布団に潜ると、いつも布団をめくると同時にわらわらと集まりだしてくる3人が来ない。何かやってるのかな、と思いあまり気にせず目をつぶっていると、しばらくして部屋のドアが開く音がした。
来たかな、と思いながら目は開けずに寝る体勢に入っていると、モゾモゾと布団が動いた。なんだか湯たんぽのように暖かい。そのまま俺の腕へぴたりとくっついて止まった。いつもより固まって来たなと思い目を開けると、俺の顔を見つめる3人とバッチリ目が合ってしまった。
「「「あ」」」
「あ?」
見つかった、という顔だけど、どう考えても見つかるに決まってるだろと突っ込みたくなる。3人はでっかいプレゼント用靴下に体を入れていた。やたらとぽかぽか熱を持っている3人に声をかける。
「なんかお前ら熱くないか?大丈夫?」
「ギリギリまで、ストーブに当たってました」
どうやら湯たんぽになろうと自分たちの体温を上げていたらしい。
「はは、なんでだよ」
「あの、私たち、マスターにプレゼントがしたくて、でも、贈れるような物を持っていなくて…」
「故に、私たちがプレゼント」
灰ジュナオがモゾモゾと動きながら言った。3人で入るとさすがに靴下も狭いらしい。誰かがスペースを取ろうとする度にほっぺが押し潰されている。
「……だめ?」
最後にそう白ジュナオが聞いてきたので、3人まとめてぎゅっと抱きしめた。あったかい、少し暑いくらいだ。角が当たってちょっと痛いけど。
「ありがとう」
「「「!」」」
「では私は前を温めます!!」
「背中」
「足」
「え、あ、うん」
急に散開していった俺のプレゼントたちは妙に燃えた使命感で湯たんぽの役割を全うしだした。すごいね君たち、軍隊みたいだね。
「うわ…あったかい…」
ぽかぽかする。あっという間に落ちる瞼に意識もストンと落ちていった。
…そういえば、ジュナオたちが来てからというもの、1人で眠る布団の温度を忘れてしまったな。
「ふぉっふぉっふぉっ…いい夢を…見るがいい…のじゃ…じゃぞ…」
サンタさん、キャラ作り下手ですね。