「マスター、マスター?どこへ行ってしまわれたのですか?」
ふわふわと漂いながら、褐色の青年は己の主である小さなマスターを探していた。最近の彼のブームなのか、少年は青年の隙を見つけては、小さな体を家具の隙間やカーテンの裏に隠し込み、こうして呼びかけながら自分を探す彼のサーヴァントを楽しそうに見ているのだ。
もちろん、青年はサーヴァントなので、小さな人間の子供の気配くらいなど朝飯前に見つけることができるのだが、青年は少年が可愛かったので、こうしていつまでも見つからないフリをしているのだった。
少年が隠れているテレビ台の裏を何往復かして、ふぅ、とため息をついた。それを合図に、彼のマスターはパッと身を飛び出して、ぱたぱた足音をたてながら宙に浮いている彼に飛びついた。
「アルジュナ!」
「マスター、探しましたよ」
腰にしがみついて足をぷらぷら浮かせている少年の頭を、アルジュナと呼ばれた青年は穏やかな顔で優しく撫でた。彼の背から生えている尻尾も、無意識なのかゆらゆらと揺れていた。
「勝手に居なくならないでくださいね、心配しました」
「しょうがないな」
にこにこ笑う少年は今でこそ年相応の表情を見せるようになったが、出会ったばかりの頃は常に口を結んで下を向いてばかりの子だった。随分笑うようになったと思いながら、自分の腰にしがみつく小さな体をそっと降ろした。
「遊ぼう、アルジュナ、遊ぼう」
「それもいいですが、マスター。しっかりお勉強もしましょう」
両親のいない少年は、アルジュナが来るまでいつも1人で勉強をしていたと言う。真面目なのか、自分で決めたことはきっちりやり遂げる性格らしく、必ず1日数時間は机に向かって鉛筆を動かしていた。
はぁい、と返事をして、少年は少し残念そうな顔でぺたぺたと自室に向かい出した。アルジュナはいつもの勉強時間が近かったためそう言ったのだが、もしや、マスターを傷つけてしまったのではないかと思い、はっとして肩を落としていた背中に声をかけた。
「マスター!終わったら、たくさん遊びましょうね」
その言葉に、少年はぱっと顔を上げて振り向いた。
「うん!」
もはや神に等しい存在の青年にとって、彼のマスターであること以外、至って普通である小さな少年と暮らすことなど些事であった。けれどその小さな手が、なんの躊躇いもなく青年の手を握ったことが、彼には言いようのない幸福だった。
「あのね、終わったら、アイス食べようね」
「ええ、そうしましょう」
何の変哲もない小さな存在だが、青年にとって少年はもう、彼だけの宝物となっているのだ。
「おはようございます、マスター」
「いつもより、少しだけ寝坊」
「起きる」
「…………おー」
「?どうしました、マスター、私たちの顔をじっと見て…何かついていますか?」
「白、何か、ついてる?」
「角としっぽ」
「いやそれみんなついてるだろ。灰ジュナオもなんで"ホントだ…!!"って顔してるの」
「マスター、大丈夫ですか?まだ眠いなら…」
「いや、大丈夫。ちょっと夢みてぼーっとしてただけ」
よっこいしょ、と布団から這い出して伸びをした。その隣に、小さなジュナオがちょこんと立って俺を見上げていた。
「………」
「?、あの、マスター?」
「…ジュナオ、縮んだ?」
「えっ」
キョロキョロと自分の体を見回しながらジュナオが慌てていた。白ジュナオがその隣に立って、灰ジュナオが手で2人の背を比べていたが、明らかに角のリーチの差を忘れて測っている。
「これくらい白のが、高い」
「嘘です!そんなの嘘です!」
「些事」
わーきゃー揉めだした3人を見て、気のせいだよなぁ、と俺は大きな欠伸をした。