今日のにゃんこ、クリスマス編
ああ眠い眠い。いくら寝ても眠い。くぁ、と欠伸をして、寝心地のいい体勢を整えまた目を閉じた。カルデアの中は空調が一定であるはずなのに、不思議とこの季節はいつもよりストーブに当たりながら丸くなるのが心地いい。尻尾をごきげんに揺らして眠りにつこうとした時、誰かが頭をふわりと撫でた。
億劫に目を開けると、自分とお揃いのふわふわな耳が見えた。向こうもしっぽを揺らして楽しそうに私を撫でている。
「ふふ…かわいいな」
アタランテか。ぐるぐる喉を鳴らせば、気持ちのいい場所をしっかり撫でてくれるので最高だ。しばらく撫でてもらっていると、ふと思い出したようにアタランテが口を開いた。
「そうだ、今日はクリスマスだぞ。今年のサンタは誰なのだろうな…まぁ、お前はあまり興味がないか」
ない。さんたとやらがマタタビでもくれるのなら別だが。
アタランテはひとしきり撫で終えると「またな」と言って去って行った。大きく1回伸びをして、そろそろどこかへと移動するかと身を翻す。
「にゃんこちゃーーーーーーーーーん!」
「ミギャア!」
いきなり何かが飛びついてきた。アホそうな大声で耳までキーンとする。何をするんだと爪を立てて暴れてやれば、「アイタタタタ!!わーんやめてやめて〜!」と間の抜けた声を出しソイツは拘束を解いた。
「ダメだよ!せっかくのおニューの衣装が破けちゃうでしょ!めっ!」
お前が飛びついてきた来たからだろうと毛を逆立てて抗議しようとしたが、はて。コイツはアストルフォの筈だが、いつもと身なりが違うぞと思っていると、うさ耳を生やしたへんてこな姿をしたアストルフォはおもむろに何処からか大きなベルを取り出した。
「よし!気を取り直して、君も今日からサのつく自由業だ!猫のサンタとか、絶対可愛い!エモい!うん、僕ってば天才!」
「は?」
何を言ってるんだコイツ、と思ったがよく考えたら普段から何を言ってるか分からないからむしろ普通か、と納得していると、アストルフォが鐘を数回ならした。
「にゃんこサンタ、爆誕!ドーン!じゃ、頑張ってね!」
…………………。
「アンデルセン、サンタって何するんだ?」
「あ?…………ああ、名前か」
「うむ」
サンタになると決めたものの、その肝心なサンタがよくわからなかった。猫のままでは不便なので人型になってアンデルセンの元へ行けば、眉をしかめ怪訝な顔をされた。
「サンタになる?何を馬鹿なことを言っている。人になっても脳みそは猫のサイズのままなのか?」
はっ!と吐き捨てるように流れる罵倒をされた。ムッとしてアンデルセンを睨み返す。
「もう触らせてやらんぞ」
「卑怯だぞそれは!!!」
はぁーっとため息をついたアンデルセンは、本棚の中から1冊の絵本を取り出した。
「コレとかでいいだろう。そら、読んで自分で学べ」
「文字を読むのは嫌いだ。読んでくれアンデルセン」
「子供か!その姿で音読をせがむな!」
「なら触らせない」
「そこに座れ」
言われた通りに胡座をかいて座ると、足の間にアンデルセンが座り、全身赤い服を着た恰幅のいいじいさんが笑う表紙の絵本を開いた。
「途中で寝るなよ名前」
アンデルセンの心地よい低い声が部屋に響いた。何度か眠たくなったが、寝るなと言われていたので必死に頑張った。褒めて欲しい。
困ったな。自分に赤い要素が全くない。着ている着物は朱色だし、無理やり赤ですと言い張ろうか?うんうん唸ってレイシフトした先の雪原を当てどもなく歩いていると、突然後ろからつんつんと肩をつつかれた。
「?」
振り返ると、キラキラした表情で見つめてくる女がいた。帯刀しているし、セイバーだろうか。
「キミ、キミ!何そのネコミミ!尻尾まで!はぁっ!しかも金色の瞳の美青年とか!くぅーっ!あと2〜3下だったらさらに良かったけど…でも少年と青年の間って感じで……グッとくる〜!!」
早口で捲し立てられて目が回る。いきなりなんなんだ。
「ああ!ごめんなさい、ビックリさせちゃった?うーん、お詫びに、何か手伝おうか?見たところキミ、なんか困ってそうだし」
「サンタにならなければいけないのだが、どうすればいいか?」
「へ?」
女は目を瞬かせて固まると、あー、と納得したように頷いた。
「そっかー、そういう時期かぁ。色んな所飛び回っててすっかり忘れちゃってた。サンタね、うーん……」
そのまましばらく考え込んで、ぽんと手を打った。
「よーし!じゃあお姉さんと、サンタになるための特訓をしよう!」
「と…特訓?」
「そう!」
よく分からず困惑していると、女は腰の剣をいきなり抜き取った。ビックリして距離をとると、うんうんと頷かれる。
「いい反応速度ね!でもまだまだ、そんなんじゃサンタになれないわよ?」
「サンタになれない…」
「そ!見たところ、確かに聖杯の気配はするんだけど…足りないって感じね?理由はよく分からないけど、それなら鍛えればいいと思います!さ、ビシバシいくわよ!」
「その、戦闘力と、サンタになれるかは、関係があるのだろうか」
チッチッチ、と女が指を振る。
「もちろん。プレゼントを渡す時、相手と戦闘になったら?」
「…諦める?」
「否!勝って相手にプレゼントを渡しきるまでがサンタさんです!」
そうだろうか。そもそもプレゼントをあげるのになぜ戦闘になるのだろう。
「プレゼントを渡す相手が、最高の剣士であるなら?」
「…普通に渡す?」
「否!否!!!戦いを申し込んで勝利してから渡します!」
絶対個人的な感情に基づいているのだけど、参考にしていいのだろうか?
「うんまぁ、それは私がしたいだけですが。でもここでサンタになるって、特別な意味があるみたいだからね、強くなっても損はないと思います!」
はぁ、と一応は納得した素振りをすると、女はニコニコと軽い調子で殺気を放ってきた。
「それではお手並み拝見。宮本武蔵、参る!」
「…………………にゃあ…」
ボロボロの体を引きずって、なんとかマイルームに辿り着いた。なんなんだあの女、全く容赦がなかった。おかげで、サンタだなんだと言っていたのが馬鹿らしくなって帰ってきてしまった。…いや、そもそもなぜ自分はサンタになどなろうと思っていたのだろう。
マイルームの扉を開くと、マスターも一休みしていたようで横になってうたた寝をしていた。ちょうどいいのでその横に潜り込み暖を取る。
「…んん、?」
起こしてしまったらしいが、声をかける元気がない。温かい体温のマスターに抱きついて目を閉じた。
「えっ、あれっ、あのっ!どなた!?」
「うるさい…」
「うそ…勝手に抱きつかれて文句言われた…えっと……ネコミミ…?」
手を伸ばして、マスターが耳を触ってくる。ゴロゴロ喉を鳴らすと、「もしかして」と声が聞こえた。
「名前ちゃん…?」
「ちゃんじゃない……」
だめだ、限界である。今度あったらあのスパルタセイバー、絶対に爪で引っ掻いてやると心に近い、私は眠りについた。
「…あれっ。なんか、いつの間に名前ちゃんのスキルと宝具、強化されてるんだけど!?」
すよすよと眠る青年の頭を撫でながら、マスターは苦笑いした。
「名前ちゃん、何してたの…?」
返事はない。かわりに彼のネコミミが、数回ピコピコと動いたのだった。