「詳しいことは、言峰神父に話を聞いてくれ」
「あぁ、うん」
友人は素直にうんうんと頷き聞き役に徹するジュナオに大層気分良さげにこの施設をあらかた語り尽くしてから、めったに出した事の無い来客用のコーヒーを淹れて、ようやく本題に入り始めた。
手渡されたシンプルなゴールドの腕輪を、心もとない部屋の豆電球に照らしながら透かし見るように掲げた。刻印の一切ない滑らかな金属の表面を指でなぞる。気品は感じるが、その辺の雑貨屋で購入したと言われれば納得してしまうような感じだ。
「お前にこれをやる代わりに話がしたいって。お前のサーヴァントの事話してるけど、まぁ、あの人なら大丈夫だと思って…」
「わかった。いいよ。この後行ってくる」
まだ着けるなよという忠告に素直に従ってポケットに腕輪をしまった。それを目で追うようにして大人しく座っていたジュナオが、聞き慣れない人の名前に首を傾げていた。友人が「あぁ、」と気がついて説明をしだす。
「ここの偉い人だよ、神父さん。俺たちの育ての親、にもなるのかな…。って言ってもそんなに出てこないし、運営元って感じ?」
「その方には、私の話をしているのですね」
「うん。正直、俺一人でなんとかするって範疇越えてるなと思ったし。言峰さんって、なんつーか、そういうのに答えをパッと出せるような人って言うのかな…。そういや、歳いくつなんだろあの人」
ほぉ、という顔で大して気にしていなさそうなジュナオを横目に、俺は少しだけ心配になる。別に言峰神父のこともこの友人のことも疑う訳では無いが、噂というものはどこからでも漏れてしまうものだ。魔術のほぼ死んだ現代に、こんな魔術結晶の塊のようなサーヴァントという存在を曝露させようものなら、ジュナオがどうなってしまうかなど考えたくもなかった。だがまぁ、心配していても仕方がない。ともかく、話を聞きに行かなければ。
「なぁ、なんでそんなにジュナオを小さくしたいわけ?今の状態で安定してるようにもみえるし、別に困ってるわけでもないんだろ?このままじゃダメだったのか?」
「え、や、その。なんつーか…違和感っていうか…その…なんとなく、っていうか…」
「…お前そんなあやふやな感じでここまで来るような奴だっけ。てきとうな奴だとは思ってたけど、
そこまで無計画な奴じゃないだろ?やっぱなんかあるのか?」
「やー、その、」
「あります」
「うおっ」
突然のジュナオの訴えに、友人だけでなく俺まで目を丸くした。スンと背筋を伸ばしたそのお行儀の良い姿勢に、猫背族の俺ら2人は自然に気圧されるような低い姿勢になって、彼の次の言葉を待った。
「マスターが以前のように接して頂くのはこの姿では難しいと。手伝い後の頭を撫でる行為や散歩時の手を繋ぐ行為が全く無くなってしまい、私は寂しいです」
「あら〜…」
「やめろ、そんな目で俺を見るな」
生ぬるい視線を手で払い除け、ジュナオにそれ以上話さないようにと目線で訴えたがあまり伝わらなかったのか、ただ見つめあってにこりと微笑まれるだけになってしまった。仕方ない。
だがまぁなんとかはぐらかせたので良しとしよう。居心地の悪さが上がったが、ガシガシと頭をかいて誤魔化した。
「そんで、言峰神父はどこにいるの?」
「下の聖堂に居るって。なぁ、お前今日はここ泊まるんだろ?」
「え?あー、いや、一応ホテル予約してる」
「そうなの?別に家みたいなもんなんだし、ここでも良かったのに」
家と言われて内心嬉しかったのを「おー」と受け流し、照れたのがバレないように懐かしむような仕草で天井を見渡して、その年季の入ってきた木造の屋根を見上げた。ヒビは入ってきてはいるが、よく手入れされた柱だ。匂いも変わっていない。
「そういえば、ここから見える時計塔と聖堂も見事ですね」
「おっ!気になる?話しちゃおっかな〜、あれは…」
どうやらまだ話し足りなかったらしい。友人の施設案内というかうんちく語りは二限目に突入した様で、結局言峰神父に会いに行ったのはそれから1時間後のことだった。