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少し付き合って欲しい、突然カルナにそう言われてついて行くと、向かった先は娯楽ルームだった。もしかして、遊ぼうということなのか?あのカルナが自分に?
はてなマークを大放出しながら俺を先導しているカルナに流されるまま室内に入ると、既に1人先客が座っていた。
ピシッと伸ばされた背筋、彫刻のように均整のとれたシルエットをした褐色肌の彼は、カルナが「待たせたな、アルジュナ」と声をかけると鋭い目付きでこちらを向いた。
「カルナ貴様…多忙なスタッフの者に声をかけたのか?暇を持て余した英霊なら、いくらでもいただろう」
「む。そうだが、俺は名前が適任だと思った。確認もしたぞ」
「いくら貴様と私の勝負と言えど、これは私的な行為だ。だからマスターにも伝えないことにしたというのに!」
「そうだ、マスターには迷惑をかけない。だが名前にもかけはしない」
「そういうことでは…」
なんだか物凄い所に挟み込まれてしまったんじゃないか?やいのやいのと言い争っている2人に割って入る勇気などなく、ただオロオロと交互に顔を見た。するとアルジュナの方が言葉を詰まらせると、カルナから俺に向き直った。
「貴方、大丈夫なのですか。この男から、何か説明は受けていますか?」
ついてきてくれと言われてついてきただけなので、首を横に振った。するとアルジュナは額に手をやり、「カルナ………貴様は………」と俯いてしまった。
「いや、あの、大丈夫だから。今日は休みだし、別に嫌々ついてきたわけじゃなくて、俺もカルナにお返しがしたくて自分の意思で来たから、」
だから気にしないでくれ、と伝えると、不思議そうに首を捻るアルジュナとカルナ。…いや、なんでカルナまで首を捻ってるんだ?アルジュナも「何故お前まで」と呆れていた。
「それで何をすればいいんだ?娯楽ルームだし、もしかして2人で一緒に遊びたいとか、は、ない、です、よね、すみません」
みるみるうちにアルジュナの顔が険しくなっていったので急いでブレーキを踏んだ。危ない、そんな訳ないと思ってはいたが、冗談が通じる感じでもなかった。怖いよ、助けて立香くん…。
「この男と遊ぶ、ということはありえません。いえ、マスターの命令であれば遂行しますが」
「俺は構わんぞ(特別意訳:遊びといえど貴方に負ける訳にはいかないので、全力でやらせて頂きます。)」
「私は構う!」
「えっと!何をするんでしょうか!」
このままだと娯楽ルームで神話大戦とかがはじまりかねないので、勇気を振り絞って声を出した。俺の一言にハッとなったアルジュナが咳払いをして説明してくれた話をまとめると、こういうことらしい。

いつもの通り戦闘シミュレーションルームで刃を交えていた2人だったのだが、どうやらその日は白熱しすぎてしまったらしく、予定の時間を越しての熱戦になったそう。次の番を待っていたモードレッドが痺れを切らして乱入、そこに面白そうだと次々に英霊達が乱入し、シミュレーションルームは大乱闘サーヴァントブラザーズと化した。当然事態を察知したエミヤに怒鳴られ、結局その場は立香くんの令呪によって収められたらしい。で、2人はというと、乱入してきたサーヴァント達も悪いとは言うものの、元々の原因ということで長期間の戦闘シミュレーションルーム出禁になってしまったらしい。
恥ずかしそうに語るアルジュナには申し訳ないが、ちょっと笑いそうになってしまう。話によると乱入してきたサーヴァントに何人か知った名前がいたので、想像してしまった。
対して俺の横に座って無言のままのカルナは飄々としていた。いや、そう見えるだけで落ち込んでいるのかもしれないけど…。
「ですので、武器を使用しない闘いならどうかとなりまして」
「はぁ」
「貴方には、ジャッジをして頂きたいのです」
それで、娯楽ルームに妙な覇気でいたのか。俺が室内を見渡すと、部屋には様々な遊具が置かれていた。ビリヤード、ダーツ、卓球、ビンゴ、ポーカー台…あとはトランプやらドミノやらジェンガやらオセロやら、これらで闘おうという事なのかもしれないが、俺はえ、それって一緒に遊ぶってことでもあるのでは…?という言葉を一生懸命飲み込んだ。
「本当に、よろしいのですか?」
「いや、俺は大丈夫だよ。アルジュナの方こそ、俺なんかでいいかな」
「この男が貴方でよいと連れて来た、というのなら、貴方に何も疑惑はありません」
特に表情を変えずにアルジュナは真摯に俺に向き合ってそう言った。なんとも言えない気持ちになったが、彼も納得してくれたのならそれでいいだろう。
じゃあまず何からやるんだと聞けば、2人して顔を見合わせた。
「考えていなかった」
「すみません、2人では判断が難しいだろうと話していて、カルナが突然飛び出していったので…」
少し眉が下がったよく似た表情でそう言われた。この人たち、逆さまのようでこういう所がそっくりだな…。

俺があれこれ考えた結果、ダーツ、ビリヤード、卓球、ポーカー、オセロ、そして最後にジェンガで締めて、勝ち数が多かった方の勝利とすることにした。アルジュナは運が絡むポーカーはナシにしようと言ったが、カルナが問題ないと主張したので結局入れてしまった。アルジュナは不服そうにしていた。

そうして2人の、傍から見れば楽しそうな決闘が始まった。

1番目、ダーツ。これはアルジュナが僅差で勝利した。アーチャーの面目というか、見事に彼の放つ矢は1寸の狂いもなく中央へ吸い込まれていった。カルナも同じようなものだったが、俺がダウィンチちゃん特性超機密メジャーで測ったところ、惜しくもアルジュナの方が精密であることが判明したのだった。いや、2人がジャッジが必要と言った意味が分かった。こんなの第三者がギリギリのラインで見ないと勝負つかないよ…。
2番目、ビリヤード。これはカルナの勝利だった。カツン、と音をたてて球が見事に穴へ吸い込まれていく様は、アルジュナもカルナも見ていて圧巻だった。
3番目、卓球。これは引き分けというか中断させてもらった。打ち合っていた球が俺の目では全く追えなくなってしまったので。
4番目、ポーカー。これは…アルジュナの圧勝だった。珍しく眉根を寄せるカルナが、自分の手札を勝負が終わったあとも見つめている姿が悲しい。アルジュナはというと、「だから言っただろう」と肩を竦めていた。
5番目、オセロ。これは少し俺がルール説明をした。2人ともすぐ理解してゲームを始めていた、なんとも頭がいい。結果は僅差でカルナの勝ち。

そして最後の勝負、ジェンガ。ここまでの勝利数で、アルジュナは2、カルナも2。
睨み合う2人の間に、整えられたジェンガがあるのがなんとも言えずシュールである。
ジャンケンをしてもらい、アルジュナが先行した。ジェンガを抜き取ると、上部に乗せていく。カルナも同じく、ややアルジュナよりも几帳面に上に乗せた。抜いて、乗せて、抜いて、乗せて…。


で、1時間たった。おかしいぞ。ジェンガってこんな時間かけて1試合やるもんだったっけ?俺の目の前には天高く積み上げられたもはや抜き取る場所などないタワーが出来上がっていた。いや、信じられないかもしれないが、それでもこの人たちは続けている。もはや抜き取った段が空白になっても、テーブルクロス引きみたくストンと上のものが着地して、グラつきながらも奇跡のタイミングと安定で固定され続けていた。俺は今ならジェンガの悲鳴も聞き取れそうだ。
「……………」
それでも、終わりの時は近づいていた。カルナが狙いを定めて震えもなく指を近づける。だが、タワーは今にも崩れそうだ。
「……………」
アルジュナも固唾をのんでカルナの指先を見つめている。俺も自分の鼻息なんかでタワーが崩れてしまったらと考えると、息もできずに若干具合が悪くなってきていた。
俺が三途の川を見かけていると、カルナがジェンガを引き抜いた瞬間、ガシャーッ!と天高く積まれていたタワーが遂に崩れた。俺の頭より余裕で高く積まれていたそれが降り注いでくるのが見えて、咄嗟に腕で頭を防ぐ。瞬間、背中に手を当てられた感覚があった。落ちてくるジェンガの痛みを予想していたのだが、ひとつも当たった感じがない。恐る恐る目を開ければ、目前にアルジュナとカルナの顔があった。2人で俺に覆い被さるように少し屈んで立っている。…もしかして、庇ってくれたのか。
「お怪我は」
「怪我は」
揃った声で確認された。どこにもないと伝えると、スっと離れていく。
「あ、ありがとう」
「いえ、貴方に迷惑をかけない、というのが約束ですので。当然です」
事も無げにアルジュナが言う。乱れた服を整えながら、さて、とカルナに向き直った。
「…む」
「この勝負、引き分けですね」
俺とカルナが首を捻る。ジェンガはカルナが引き抜いて倒れたので、この勝負はアルジュナの勝ち…だから、アルジュナの勝ち点が3、カルナが2なので、アルジュナの勝ちである筈なのだが。
「ポーカーは無しです。私が運絡みで負ける要素がありませんので」
ツン、とアルジュナが言うと、カルナがムッとして反論する。
「俺とて負ける気はなかった」
「お前が自分の幸運をどう言おうが構わんが、私において勝つのは当然だったと言う事だ」
どうやら譲る気はないらしい。カルナも思う所はあるのか、「むぅ…」と言ってそれ以上は追求しなかった。
アルジュナがしゃがんで崩れたジェンガを拾いだしたのを見て、俺も慌てて拾い集める。カルナも続いて拾いだした。なんかもう絵面がアレである。
大英雄2人が遊んだ後のジェンガをしまい終えると、改めてお礼を言われた。
「今日は、ありがとうございました。我々の私的な決闘に付き合って頂き、公平に判断をして頂けたこと、感謝致します」
「いや、楽しかったよ」
ホントにこれは本心だった。実は娯楽ルームに来たのも初めてだったので、誰かとこうしてゲームをする(俺は今回見てただけだったけど)っていうのは子供の頃に戻ったみたいだった。
「俺は引き分けとは思っていない。次こそは勝たせて貰うぞ」
「フン、ならば受けて立つ」
睨み合う2人に、仲がいいな…と笑った。流石に声に出せるほど肝が据わってはいないけど。
「お前がいいのであれば、その時はまた居て欲しい」
こっちを見たカルナが少し口角を上げて言ったので、「俺でいいなら」と笑い返した。