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最近は、なんとなくピリついた雰囲気が漂っている。廊下に行き交うサーヴァントやスタッフのみんなも、みんな一様に引き締めた顔をしていた。無理もない、人理修復の旅、俺たちの戦い。それがきっともうすぐ、もうすぐ果たされる筈なんだ。
いくつもの旅を見てきた。モニター越しだったとしても、彼が戦っているあいだ、俺達スタッフが同じ場所で呼吸をしていなかったんだとしても。心はひとつで、想いはひとつなんだ。
最近の立香くんは、サーヴァント達との交流に殊更忙しいようだ。かくいう俺も、最終メンテナンスに忙しく管制室から出たり入ったりを繰り返していた。

いいかげん仮眠を取れと追い出された先のマイルームに、ノックの音が聞こえてきた。ソワソワして落ち着かなかった俺は、すぐさま「どうぞ」と言って入室を促した。
「立香くん」
「どうも、名前さん」
にこっと笑って、久々に見た懐っこい表情の彼がトコトコとやって来た。俺は座っていたベッドを横にズレて、隣に座るよう誘った。「ありがとうございます」と言って立香くんが腰掛ける。
「久しぶりだな、忙しいんだろ」
「はい。でも、会いに来ちゃいました」
えへ、と笑う彼に、やっぱりたじろいでしまい視線を逸らすと嬉しそうにまた笑われた。遊ばれている。
「お願いごとがあって」
「何?」
立香くんはつま先を見つめながら脚をプラプラさせて話す。
「全部終わったら、一緒に遊びに行きませんか」
「どこに?」
随分アバウトなお願いごとだなと笑うと、立香くんは「んー」と考えるような仕草をした。
「決めてないんですけど、それも一緒に考えませんか?」
「いいね」
こういう、なんでもないように相手と距離を合わせようとしてくれる所が彼の魅力だなと思う。たぶん計算でもなんでもない、彼自身の性格によるものだ。
「名前さんは海派ですか?山派?」
「海かな。いや、でも森もいいよな」
と思いを馳せたが、実際俺は生粋の引きこもりなので、こっち!というものが無い。どちらかというと家。そう言うと立香くんは笑った。
「分かります、俺も家で寝るの好きです」
なんでもないように言うが、彼が最後にそうしていたのがいつなのかと考えてしまった。普通の少年の、普通の家庭がある筈なのに。
「立香くんの家は…どんな感じ?」
「普通ですよ、普通の家。うーん、説明しにくいな…………あ」
ぽん、と手打ちすると、こちらへぱっと顔を輝かせて振り向いた。
「じゃあうちに遊びに来てくださいよ」
「え」
予想外の返答でぽかんとしてしまった。立香くんは照れくさそうに頭をかく。
「いや、やっぱ無いですね。うちなんにもないし。もっと面白いとこにしましょう」
「立香くんの家がいい」
思わず言ってしまった。俺の言葉に今度は立香くんが固まる。
正直、すごく気になるし行きたいんだよな。でももしかして今の、社交辞令だった?俺なんか家にこられても困るだろうし。
やってしまったな、と肩を落としていたら、クイッと袖を引っ張られた。
「来てくれるんですか…?」
その顔はどこからどう見ても嬉しそうで、なんならパァァァァという効果音が見えてきそうだった。
「え、いや、え?いいの?」
「名前さんがいいなら!あの!俺の地元案内します!なんもないけど!」
なんもないんかい。でもきっとそれは、確信を持って言える。
「それは、楽しみだな」
そう言って笑えば、立香くんも笑った。
「はい、楽しみです」
きっとこれは約束というよりは、祈りに近い。どうか姿のない神様へ、この少年に未来と、そして、俺たちの道筋に光がありますように。