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カルデアが変わろうとしていた。どうやら新しい所長を迎え入れるらしい。らしい、というのも俺は下っ端も下っ端なので、複雑な魔術協会の事情など知る由もない。ただ、今回の人類史における稀代の事件に、蟻の働き程度でも携われていたということで、俺なんかでもそれなりの評価を貰えたらしい。なんでも、その新所長が従えている秘書からの推薦で、何故か俺が名指しで秘書補佐に選ばれたらしい。またしても「らしい」なのだが、俺はその秘書の顔も名前もどんな人物かさえも知らないので仕方がない。
「こわい…断りたい…でも給料めっちゃあがる…」
「お前割とそういうとこあるよな」
隣で友人が興味なさげにパックジュースを飲みながら答えた。さっきから俺がうだうだと同じような愚痴を言って机に突っ伏しているので、若干面倒くさそうだった。ひどい。
「だって3倍くらい違うんだよ〜、誰だって悩むだろ〜」
「まだ返事してないのかよ」
「返事っていうか…通達来ただけだから、こっちの答えとか要りませんって感じだったけど」
そう言うと、友人が露骨に顔をしかめた。
「んだよそれ。…あーあ、どうなんのかね、ココ」
彼を含め、カルデアのスタッフは今回の展開をあまり快くは思っていない。もちろんそれは俺も同じだけど、やっぱり俺たちは基本下っ端なので、上の命令には従うしかないのだ。
「はぁー………。立香くん、大丈夫かな」
「でた」
俺がうわ言のようにそう言うと、急にニヤニヤしだした友人が身を乗り出した。
「でたって何?」
「別に。仲良いよなお前ら」
意味ありげにニヤついていてムカつくので椅子を蹴りあげたら、ケラケラ笑われた。ムカつく。
「悪いようにはなんないだろ。まぁ、向こうも待遇には困ってるだろうけど」
「…酷いことされなきゃいいけど」
「大丈夫だろ。世界を救った英雄なんだから」
冗談っぽく笑って肩を叩く友人に返事をして、再び業務に戻る。普段は皮肉めいた事しか言わないが、こういう時は明るく慰めてくれる友人に心の中で感謝をしつつパソコンの画面に向き直った。

新しい所長がやってくるまで、あと3日。それまで、俺たちは出来ることをやるしかない。