39
目の前に盛られていく大盛りライスに対抗できる手段が何一つない。とっくに壁であるべき部分を凌駕して、俺の配膳されるお茶碗には文字通り山に盛られたご飯が待ち構えていた。
とにかくあまりにその量が凄いので勘弁して欲しい旨を伝えたいのだが、目の前のお兄さんはとにかく真剣に、俺のご飯の量を特盛にする事に没頭している。
「はい。これぐらいでしょう。どうぞ、職員さん。貴方は食べた方がいい。そう、量です、全ては」
「あ、え、えっと」
ドスン、とめり込むように俺のトレーに乗せられたご飯は、立ちはだかりそびえ立つ山だった。重すぎる。
「こんなに、食べられないです…」
「それはいけない。貴方はどう見ても栄養が足りていない顔色だ。食べられるだけ食べましょう。今ポテトも盛ります」
「名前!今!丹精を!込めて!マッシュしておりますので!ヌンッ!」
厨房の奥からガウェインの力強い声が聞こえてくる。逃げ道がない。ていうかご飯とマッシュポテトの組み合わせで量を食べさせようとするな。
「食べましょう!」
パーシヴァルの白い歯がキランと輝いた。100%の善意、そして1000%のポテトを感じる。
「ヘルプミー………」
「大丈夫、残ったご飯はおにぎりにしましょう!」
名前は目の前がまっくらになった…。


危うくバッドエンドになる所だった。たとえ今日の昼食が山盛りポテトライスになろうとも人生は続く。
テーブルの上にあるそれを前にとりあえずスプーンを構えてみたが、もはやどこから攻めればいいのか分からず固まってしまった。なるべく食堂の端っこに座ったのだが、「え、あれ食べるの…?」という周りからの視線が痛い。食べるよ。もうやけくそなんだよ。
「ちゅちゅん、いけまちぇん。それは勇気と無謀を履き違えているでち」
「いてっ」
意を決し涙目でマッシュポテトの山にスプーンを突き刺した時、小さな紅葉の様な手にペチンと子気味よくスプーンを叩き落とされた。音は可愛かったが割と痛い。ヒリヒリする手の甲を擦りながら振り向くと、座っている俺とようやく目線の合う位置に紅閻魔ちゃんが腰に手を当てて立っていた。
「まったく、誰でちか、これを配膳したのは。栄養が偏りすぎでち。これじゃあますます不健康になるだけでちよ。一汁三菜、ご飯の鉄則でち」
「はい…」
「職員さまだけを責めているわけではありまちぇんが…カルデアの厨房に立つ者として、この食事を許容するわけにはいきまちぇん!」
ひょいとポテトライス定食の乗ったトレーを持ち上げて、紅閻魔ちゃんは軽やかに厨房へ行ってしまった。その小さくも逞しい背中を見つめつつ俺は…ここから動かない方がいいのだろうか?待っていろ、という事だと思うんだけど…。

所在なく厨房の出口を見つめながら待っていると、しばらくして紅閻魔ちゃんに押し出されるようにガウェインとパーシヴァルがやって来た。大きな体を萎縮させ、しゅんとした男前が並んで俺の座っているテーブルの前に座る。
「「怒られました」」
「あ……はい……」
ですよね。いや、本当は俺がひとこと断っていればよかった話だったと思うので、そうしゅんとされると申し訳なくなってしまう。紅閻魔ちゃんは小さくても食に関してはとても厳しい子なので、2人ともしっかり怒られたのだろう。
「なんか…ごめんなさい」
「いえ、私たちが少々悪ノリが過ぎたというだけです。貴方の食べる量が、いつも少ないと心配していまして…」
「そうです。名前は食べた方がいい。我が王のように大きくなれませんよ」
ガウェインが腕組みをして言うと、パーシヴァルもうんうんと頷いている。その後ろ、静かに様子を見ているベディヴィエールがため息をついて、こっそりと口パクで「すみません」と言っているのが見えた。あ、今日もお疲れ様です。
「それはバランスの良い食事をとってこその話でち!まったく、どうやらまだ反省が足りないようでちね…」
「はははは!レディ!その通りです!」
「はっはっはっはっは!」
歯を輝かせながら2人が肩を組み誤魔化すのをじっとりと睨みつつ、紅閻魔ちゃんは配膳カートからテキパキと料理を取り出し俺たちの前に食事を並べだした。小鉢には洋風のサラダ、湯気のたつ温かそうなスープ、中央の大きなお皿には、グラタンのようなものが素晴らしい焼き加減で輝きを放っている。美味しそう、すっごく美味しそう。
「これは…もしや、グラタンですか?」
「でち。お前さんたちのマッシュポテトとごはんを使わせてもらいまちたよ」
ほぅ、と、パーシヴァルもガウェインも瞳をキラキラさせて目の前の料理に感動しているようだった。
「さ、皆ちゃん。たんとおあがり、でち」
弾けるような笑顔で紅閻魔ちゃんが俺たちにそう言うと、自然と俺は食事に手を合わせていた。前に座っている2人も、ならうように手を合わせる。
「「「いただきます」」」

言うまでもないけど、紅閻魔ちゃんの料理はとっても美味しかった。