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依頼品の調合薬を台所で作っていると、3番目のバーサーカーに相談があると呼ばれた。行儀よく俺の座布団まで敷いて、ちょこんと座る3番目のバーサーカーに丸テーブルを挟んで向き合うと、「お仕事中、失礼しました」と言われた。
幼い顔に似合わず、礼儀正しいバーサーカーに俺は「いいよ、そろそろ休憩しようと思ってたから」と言うと、「そうですか」と安心したように微笑んだ。
「それで、相談って?何か欲しいものとか出来たか?喜んで買ってあげるけど」
「いえ、欲しいものとかでは…。…欲しいもの、と言えば、欲しいものなのですが。お金で買っていただくものではありません」
お金で買えないけど欲しいもの?俺がよく分からず首を傾げると、3番目のバーサーカーは困った表情で話し出した。
「その、なんと言いますか、マスター、私の事を、ちょっと呼んでみてください」
「バーサーカー」
「では、あちらの私を」
俺は今日も今日とてぼんやりと宙に浮いている1番目のバーサーカーを見た。
「バーサーカー」
「あちらの私は?」
今度は窓際で絵本を読んでいる2番目のバーサーカーを見た。ちなみにタイトルは百万回死んだ猫だ。
「バーサーカー」
「不便だと思うんです」
確かに!!!と言うか今更だった。まぁ分かっていたが、この1ヶ月、バーサーカーバーサーカーと呼んでいて(一応の番号は振ったが)皆が普通に返事をしてくれたので特に気にしていなかった。ちなみに真名とかも聞いてない。彼らへ質問した時に、今の我々が彼に値するものなのかとか云々聞こえた辺りでじゃあ今はバーサーカーでいいよと言った。言いたい時に言ってくれればそれでいいと思った。
「じゃあ、えっと、要するに欲しいものっていうのは…」
「はい。マスター」
3番目のバーサーカーは照れ笑いながら、俺に言った。
「私たちに、名前をつけてください」



「蓮、湊、大翔…」
俺は男の子の名前ランキング、というサイトと睨めっこしていた。おもいっきり和名だけど、まぁ日本なのでその方がいいか?と思ったが絶対おかしいな。どう見ても日本人じゃないし。ていうかこれどう読むのが正解?日本語の勉強はしたけど、こういうのは正しい読み方がわからん。
「え?空って書いてスカイ?皇帝で…シーザー?フランツ?嘘でしょ…日本人、どこに行こうとしてるの?」
俺が日本人の深淵を覗いていると、後ろから画面を覗き込んでいた3番目のバーサーカー(仮名)が、「マスター」と声をかけてきた。
「ん?」
「マスター、今更なのですが、我々の真名は"アルジュナ"です」
「………………………なんて?」
「正確にはアルジュナそのものではなく、限りなく神であろうとした、その末路。アルジュナが取れたであろう選択の可能性のひとつ。アルジュナ、オルタナティブ。もといアルジュナオルタ。…の、霊器解放段階を、別個体に分けられた状態の幼体。それが我々です」
…………………情報量が多すぎるので考えるのはやめることにした。要するに彼の名前はアルジュナ…ではなくアルジュナオルタと言うらしい。何故このタイミング?と俺が彼を伺うと、3番目のバーサーカー(仮名)もといアルジュナオルタは困ったようにはにかんだ。
「マスターに名前を付けて頂けるのは嬉しいです。ですが、だから、知って頂きたかったのです。マスターが真名を明かさなくても良いと言ってくださった日から、私は考えていました。真なる私の事を。正しくあった私の事を。…たとえ、今の私がどんなカタチであろうとも、私は彼でありたい。……マスター、私は、そう願ってしまうのです」
最後には寂しそうに目を伏せ、アルジュナオルタは下を向いてしまった。
彼がマハーバーラタの英雄、アルジュナの可能性の一つであるのなら、俺はそれでいいのではないかと思った。正しくあった、と先程アルジュナオルタは言った。であるのなら、彼は、何かを間違えてしまったのだろうか。
例えそうだったとしても、何も知らない俺に出来ることは、今の彼を笑顔でいさせてあげられるようにするだけだ。
「わかった」
俺は立ち上がって天井に引っかかっているアルジュナオルタを引っ掴んで地上へ降ろした。屋敷の天井が高すぎなくて本当に助かった。既に行儀よく座っているアルジュナオルタの横にアルジュナオルタを…分かりにくいなこれ。とにかく白いアルジュナオルタにそこに座っているよう言った。
こくりと頷き、ぺたりと足を広げて座ったアルジュナオルタを確認して、絵本を読んでいるアルジュナオルタの方に向かう。覗き込めばちょうど読み終わったのか巻末の部分だった。アルジュナオルタは「死んでしまった…」と呟いた。
よしよしと頭を撫で、アルジュナオルタを…もう本当に分かりにくいな!ともかく3人を丸テーブルの前に座らせ、俺も彼らに向き合って座った。そして、左端の白い髪のアルジュナオルタから指をさし、命名式を始めた。
「白ジュナオ!」
「些事」
それだけ言うと白ジュナオはまた天井に帰っていった。要するにOKという事だろう。そういうことにして、右端の中間カラーなアルジュナオルタを指さして続けた。
「灰ジュナオ!」
「わかった」
短く頷いた灰ジュナオを確認して、最後にぱちくりと目を瞬かせているアルジュナオルタを指さした。
「ジュナオ!」
「……………黒ジュナオではなく?」
「いやなんかそこは、プレーンのマフィンみたいなかんじで…」
俺の説明にジュナオは首をひねった。
何をどう思おうとも、ここではジュナオが在りたいように在ればいい。そんな気持ちが伝わったかどうかは分からないが、ジュナオは「ありがとうございます、マスター」と笑った。