命名式から1週間、そろそろ呼び名にも慣れてきた頃、俺はジュナオ達に洋服を着せることにした。来てからというもの彼らには身につけていた衣服以外用意していない。というか子供服とか持ってる訳もなく、じゃあネットで買うかとサイズをジュナオ達に測らせてくれと言えば、大丈夫だと言われてしまった。その時は、まぁ彼らはサーヴァントだし、そういうものかと引き下がったが、こうも時間が経ってくるとそうにもいかない。毎日近所の子供が同じ服を着ていれば「あの子、あれ以外服貰えてないんじゃないかしら…」みたいな考えになってしまう妙な感じというか、彼らの服装がどうにもこの日本屋敷にあってないチグハグな格好なので、ムズムズして仕方がない。そろそろ限界だったので、俺はまぁあれくらいならこんくらいのサイズで十分だろう、と適当に10歳から12歳までと表記された洋服類を買おうと思ったのだが、よく考えたら人に(サーヴァントだが)洋服を買ってあげるなど、生まれて23年間1度たりとも無かった経験だ。洋服の柄を見ているうちに、もう何が何だかこれでいんだか悪いんだか全くもって分からなくなってしまった。パソコンの画面を小一時間眺め、勝手にひとりで追い詰められた俺は、結局今までの人生通り、人頼みに生きてくことにした。先日も手紙を貰った、高校から付き合いのある友人に「依頼で子供を預かることになった。3人いるんだが、洋服をどうにかできないだろうか」と相談した。兄弟の多い彼ならもしかしたら古着でもあるかもしれないと思ったが、何を勘違いしたのか、「美少女JC三姉妹と同居生活!?!?」とかなんとか叫びだし、ひとしきり電話越しに暴れたあと、「日常系ゆるふわアニメなら俺に任せろ!!!」という意味不明な言葉を残し通話を切られた。と言うわけで若干の不安は残るが、今俺の目の前には彼から届いた巨大なダンボールが置かれている。割とでかいし重いので、居間へ運ぶ時にジュナオが手伝ってくれた。とりあえず、中身を見ないことには始まらないので、俺は謎の緊張で正座になりながらもカッターで中身を切ってしまわないよう、できるだけ丁寧に開封した。
「エゾリス、エゾシカ、エゾオオカミ…」
で、入っていたのは大量の謎文字Tシャツだった。あるよね、こういう土産物コーナーにあるようなやつ。でも流石にマイナーすぎない?という物ばかりだ。ご丁寧に3人着ると微妙に揃ってるような揃ってないようなモヤモヤする3セットでどれも包まれている。友人の気持ち悪い謎の努力と熱意を感じた。
その他には結構短いショートパンツが幾つか、女の子用の肌着と下着が数枚(性別を言い忘れていた俺も悪いのだが)入っていたので、仕方なくそれらはタンスに封印した。どうしよう、警察とかに見られたら、完全にヤバいやつになる。
俺がもし人に女児用下着をタンスにしまいこんでいると知られても社会的立場を守れる言い訳を考えていると、先程から遠目に俺の挙動不審を見ていた灰ジュナオがのんびりふよふよと近づいてきた。
「それは」
「服だよ。要らないって言われたけど、俺が着て欲しくて用意した。着てくれるか?」
「わかった」
案外あっさり承諾を貰えた。ありがとうと言い灰ジュナオに着せる謎文字Tシャツを探す。どれも似たりよったりなので適当に「大判焼き」と書かれたTシャツを選んだ。因みに残りの2枚は「今川焼き」「回転焼き」だ。何だそれは。
サイズが心配だったが、思っていたよりやや大きめのTシャツで助かった。女の子用にと買ってあるなら若干デカすぎるんじゃないかとも思ったが、追求して質問するのはやめておこう、多分碌でもない答えが返ってきそうだから。
大きな瞳でこちらを見つめる灰ジュナオに、「ばんざーい」と言って手を挙げる動作をすれば、素直にそのままポーズを真似てくれた。俺はウサミミのようだが意外と鋭い角で服が破けないよう慎重に頭の上から服を通して、腕を入れ、スポッ!とTシャツを着せた。頭口から抜く時にボサボサになった灰ジュナオの髪を手ぐしで適当に整え、下はまぁいいだろとそのままにすることにした。
灰ジュナオはTシャツの袖を引っ張って、書かれている「大判焼き」の文字をそのまま声に出して読んでいた。ごめんな、それは俺もよく分かんないんだ。
謝罪も込めて灰ジュナオの頭をそのまま撫でていると、腰にチクッとした痛みを感じて振り返る。横向きに浮いている白ジュナオの角が俺の腰に刺さって引っかかっていた。俺はとりあえず角を抜いてやると、ふよ〜とそのまま流れていってしまう白ジュナオの尻尾を掴んで座らせる。ぺたんと足を広げて座る白ジュナオは地面を凝視している。その頭の上から先程と同じように慎重に服を通した。「回転焼き」と書かれたTシャツをしばらく見ていたが、すぐに興味を失ったのかぽけーっとしだした白ジュナオを宙に帰した。ふよふよ浮いていくのを眺めていると、横の方に気配を感じて振り向く。ジュナオが順番待ちをするように、手を後ろに組んでこちらを見上げていた。俺はその頭を撫でて、Tシャツを手に取る。するとジュナオは身につけていたマントを瞬時にキャストオフした。なるほど、これは確かに洗濯の必要も無い。ジュナオなら1人で着れるだろうと手渡そうと思ったのだが、前の2人に倣ったのか、(白ジュナオはしなかったが)バンザイの姿勢で着せてもらうのを待っているジュナオを見て俺が着せてやることにした。くせっ毛の黒髪に頭口を通して着せてやると、ジュナオは新鮮そうに自身の着ているTシャツを見つめた。
「いまかわやき…?」
そこはちょっと我慢してもらうとして、これで3人とも新しい服を着てもらうという目標は達成だ。
「服は必要ないと言いましたが、何か不便がありましたか?」
ジュナオが不思議そうに聞いてきたので、俺は思った通りに伝えることにした。
「俺が着てもらいたかったんだよ。せっかく召喚されて来たんだし、色んなものを見て触って経験してったっていいだろ?」
俺がそう言うと、ジュナオはほっぺを少し赤くさせてもう一度Tシャツを見つめた。
「マスター、似合ってますか?」
「うん」
答えてもう一度頭を撫でた。ジュナオは嬉しそうに「大切にします」と呟いた。
その顔を見て、俺は友人に今度会う時は、お礼をたっぷりしてやろうと思うのだった。
それにしても、あの幼児用下着、マジでどうしよう………………ジュナオに破壊してもらおうかな………?