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近所(片道車で2時間)のスーパーで、かき氷シロップが安売りされていたので買ってしまった。赤と黄色と青の3色が、ジュナオ達の周りを漂う球体の何かを連想してしまって気づいたらレジを通していた。買っといてなんだが、使い道がない。かき氷機とか勿論持ってない。ので、グーグル先生に聞いてみた。かき氷シロップ、使い道…。

「というわけで、クリームソーダを作ります」
「くりーむそーだ」
俺に続けて灰ジュナオが呟いた。シンクに顔がようやく届くくらいの背なので、顔を見上げて不思議そうにかき氷シロップを見つめている。
「いやお前浮けるだろ?」
「なるべく、浮かないようにしてる」
そうだったのか。妙に最近俺に続いて歩いてることが多いと思った。よく分からないが灰ジュナオなりに頑張っているっぽかったので頑張れと頭を撫でた。
白ジュナオは相変わらず宙にふわふわ浮かんでいる。ただ前より俺の傍で浮かんでいることが多くなったので、懐かれている…のかもしれない。水槽の魚みたいな奴だな。
ジュナオはパソコンでクリームソーダのレシピを読みこんでいる。「ふむふむ」と頷きながら画面をスクロールしていた。ちなみに、今日の3人のTシャツの文字は"あい" "まい" "みー"である。程なくして「お待たせしました」とぱたぱた駆け寄ってくる。
「では、始めます」
「はいっ」
ジュナオは元気に返事をした。それに続いて、灰ジュナオもぽしょりと「はい」と言う。俺の頭らへんに浮いている白ジュナオは返事かどうかは分からないが、「さじ」と一言聞こえた。
といってもレシピと言えるほど難しくなんてない、シロップを炭酸で割ってアイスを乗せるだけだ。俺が何色のにするかジュナオ達に選んでもらおうと「じゃあ、どれにするか選んでくれ」と尋ねたら、何やら浮いてる奴以外の2人で顔を見合わせ困った顔でこちらを見られてしまった。どうしたんだろうか、何も変なことは言っていないと思うんだが。
俺が返事を貰えず困惑していると、ジュナオが「マスター」と声をかけてきた。助けを求める子猫みたいな顔してんな。
「ええと、すみません、マスター。できれば、マスターに選んで頂きたいです」
「俺が?でも一応味あるぞ。レモンとブルーハワイとイチゴ」
ちなみに俺はブルーハワイが好きだ。なんの味かと言われたら全く答えられないだろうが。
そう言えばジュナオはますます困り顔になってしまった。隣の灰ジュナオまで少し眉を下げているし、どういうことだろうか。
だがまぁ答えられないのなら仕方がない。第一白ジュナオのなんか絶対何でもいいと言うのだから俺が選んでやるつもりだったし。「あの、」と何か言おうとしていたジュナオを遮ってしまったが、「じゃあ、ジュナオはブルーハワイな」と瓶をジュナオの方に寄せた。
「で、お前はレモン」
「ん」
灰ジュナオはレモンの瓶を受け取ってクルクルとまわしラベルを見始めた。前から思ってたけど、お前何でも興味持つな。
急に頭に重さを感じて見上げると、さっきまで俺の頭上にいた白ジュナオがいない。ていうか頭にいきなり引っ付かれていた。身体は浮いているので我慢できない重さじゃないけど、結構痛い。
「お前イチゴね」
「いちご」
おっ、些事以外の言葉を久々に聞いた。味も決まったことだし、いよいよ作っていこう。
「あの、マスター、」
「ん?」
ジュナオがまた声をかけてきた。何か言いたそうに俺と自分に差し出された青いシロップを交互に見ている。
「変えるか?」と聞けば、ブンブンと首を振った。味が気に入らないわけではないらしい。
「いえ、…なんでもありません。選んで頂き、ありがとうございます」
どうやら大丈夫になったようだ。そうか、と答えて、俺は腕まくりをする。
「それでは作りましょう」

氷を敷き詰めた透明なガラスのコップに、ゆっくり赤色のシロップを入れていく。俺は白ジュナオの分を作って、残りの2人には自分で作ってもらうことにした。2人は俺の後に続きながら、ちょっと体を浮かせてシロップを注いだ。注ぎ終わったら、炭酸を静かに入れていく。俺がそーっと入れているのを見て、2人とも真剣な表情で注いでいるのが面白かった。白ジュナオは俺の頭にしがみついたまま自分の分のソーダを見つめている。珍しく興味を持ってもらえてなによりだ。
全員注ぎ終わったのを見て、俺は冷凍庫から得用のバニラアイスを取り出した。俺がバニラアイスの蓋を開けるのを、頭の上から、あと両脇から顔を出してジュナオズは見つめている。
わざわざこのために通販したアイスクリームディッシャーで、真っ平らな状態のバニラアイスに入刀した。グリグリと丸く形を整えて、まずは白ジュナオの分にぽてっと乗せた。何故かその瞬間、「おおー」という二人分の歓声とともにぱちぱちと拍手まであがった。白ジュナオは尻尾をバシバシ俺の背中にぶつけた。いやなんでだ、痛いぞ。
ほい、と今度は灰ジュナオにディッシャーをバトンタッチした。神妙な顔でこくりと頷いた灰ジュナオは、バニラアイスに向き合うと目を閉じ集中しているようだった。ジュナオは「頑張ってください、私に近い方の私…!」と激励している。何でこんなにこの子たち精一杯なの?
俺がホームビデオを回していないことを悔やみはじめていると、カッ、と目をひらいて灰ジュナオがディッシャーを振りかぶった。ザシュッと柔らかいバニラアイスにめり込むディッシャー、しかし力みすぎたのか勢いが抑えられることはなく、目にも止まらぬ速さで灰ジュナオが掬ったバニラアイスは左の壁にスパァァァンッと破裂音をたてて衝突した。
『……………』
声にもならなず2人で愕然としている灰ジュナオとジュナオと目が合う。うん、大丈夫だからな。怒ってないから、何となく予感はしてたからな、震えなくていいからな。
俺はショックで落ち込む2人を励まし、後ろから2人の手を抑えながら一緒にバニラアイスを乗せてやった。

何はともあれ完成した3人分のクリームソーダを持って縁側に座った。ジュナオと灰ジュナオは俺を間に挟んで行儀よく座ったが、白ジュナオは気を抜くと飛んで行ってしまうので俺の足の上に座らせた。ジュナオは青色、灰ジュナオは黄色、俺が白ジュナオの分の赤色のクリームソーダを手に持って、「いただきます」と言うと、両側からもいただきます、と聞こえた。膝の上の白ジュナオも「あ」と言って口を開いた。いや違うなこれ、俺が口に運ぶの待ってるだけだわ。
スプーンでアイスを掬って、その口にポイっと入れてやる。もくもくと口を動かした白ジュナオは、すぐにパカッと口を開いた。どうやら食べてくれるらしい。俺が小学生の時飼っていたベタを思い出して懐かしんでいると、キラキラした瞳でクリームソーダを食べていたジュナオコンビがいなくなっていた。慌てて周りを見渡すと、キッチンの辺りで音がしていた。もう食べ終わったのか?と思ったが、2人ともまだ半分くらい残っている。困惑したが、俺がスプーンで掬ったアイスを口に運ばなくなったのを怒っているのか白ジュナオが尻尾でべしべし背中を叩いて催促してくる。
「お前尻尾で会話するんじゃないよ…」
「あ」
俺が注意しても口を開けるだけだった。いいですけどね…食べてくれるの嬉しいから…。
心配しつつも白ジュナオの食事介助をしていると、ようやくぱたぱたとふたり分の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「マスター」
戻ってきたジュナオの手には、紫色と赤色が綺麗なグラデーションになっている、ちょうど今の夕日みたいな色をしたクリームソーダが握られている。俺が驚いていると、その後ろで灰ジュナオが口を開いた。
「マスターのが、ないから」
つくった、と言って、ジュナオもそれと同時にどうぞ、と差し出してくる。
「色を混ぜて作ってみました。アイスも、綺麗に乗せられたんですよ」
「頑張った」
やだ…うちの子、可愛すぎ?俺が感動に打ち震えながら「ありがとな……」と取り敢えず白ジュナオの分を横に置いて受け取ると、満足そうに2人も元の位置に座った。渡されたグラスを夕日にかざして見ると、本当に綺麗なグラデーションだった。さっきまでバニラアイスを威嚇するほど落ち込んでいたのに、アイスもまんまるに綺麗に掬い取られている。本当に学習能力が高い子達だ。多分世界一賢くて可愛いくて良い子だろう。俺がうんうんと頷いて考えていると、いつの間にか白ジュナオがスプーンを握って目の前に浮いていた。
「おいダメだぞお前、これは俺のだから…」
「あ」
俺にアイスの乗ったスプーンを差し出してくる。もしかして、お返しのつもりなのだろうか。
困惑しつつも口を開けて差し出されたそれを迎え入れた。冷たいバニラアイスが美味しい。
白ジュナオは満足そうに俺の膝に戻って残りの分を食べ始めた。ん?おいお前自分で食べれたのか?
「…うまい」
そのまま4人でオレンジ色の夕日が徐々に暗い紫に包まれていくのを、風が冷たくなるまで眺めていた。虫の声が聞こえる。もうすぐ、夏も終わりだ。