小瓶の中の液体を慎重にスポイトで採って別の容器に移す。調べるといったが、自分一人で出来ることなどやはり限られているので、この手に強い友人の力を借りることにした。
果たして凍らせていいものなのかは全く分からないが、とりあえず多く採ったものは冷凍で送ろう。一応液体を染み込ませたガーゼも真空パックで保存し同封した。瓶を全方向から撮った写真のデータも一緒に入れる。国際便で送るのが1番面倒だ。
あれこれやっていたら、すっかり夜だった。俺の集中を妨げないようにといつの間にか霊体化していた図体の大きなジュナオ達から、さっきの発言を気にしてからか食事はいらないと言われてしまったので、食事は久々に1人で摂った。なにこれ、寂しい。
ふぁ、と欠伸をして布団に潜り込むと、ジュナオ達がいつものように布団の周りに集まりだした。いやまて。
「ストップ」
「え?」
「え」
「?」
3人が同時に小首を傾げた。俺はいやいや、と首を振って言った。
「あの、流石にその姿で一緒に布団に入るのは、ちょっと」
ピシッ と空気の凍る音が聞こえそうなくらい、ジュナオたちの動きと表情が固まった。ギギギギと錆びた鉄のような動きでジュナオがこちらを見る。
「え、でも、その、だって」
「だってじゃなくて、なんて言うか、でかいし。3人もでかいのに囲まれて寝れないし。流石にちょっとそれは怖いっていうか。1人ならまだしも」
ちっちゃい姿だから良かったわけであって、自分とそう変わらない、むしろ結構でかめの成人男性3人に囲まれては寝たくない。
そう思って言ったのだが、どうやら最後の一言が余計だったらしい。バッと3人が顔を見合わせる。不穏な気配を感じた。
ボソッと灰ジュナオが呟いた。
「1人なら…」
まずい。家無くなるかもしれん。俺は咄嗟に布団に潜り込んで叫んだ。
「ともかく!そういう訳だから!元に戻るまでは全員一緒に寝るの禁止!おやすみ!」
もう知らねー!半ばヤケクソで言い放って眠りについた。だって眠いもん。
しばらくして、気づけば周りに誰もいなくなっていた。流石に諦めてどこかで拗ねているのかもしれない。明日謝ることにして、俺は早々に眠りについた。
まだ少し眠い目を擦りながらテレビをつける。いつもより早く起きてしまったのは、最早当たり前になっていた暖かい自分以外の体温が無かったからなのかもしれない。昨日は冷たい態度を取ってしまったので、朝の挨拶をしようとリビングに来たが誰もいなかった。
ジュナオが入れてくれるコーヒーを今日は自分で入れて、テレビのニュースを見た。SNSで投稿された流行りの話題をやっていた。どうやら北海道の一部地域の上空に、オーロラと思わしき不思議な虹彩が見られたのがトレンドらしい。近いな。見れなかったのが残念だ。
ジュナオたちの気配がしない。怒ってるかな、と考えて少し落ち込んだ。ふぅ、とコーヒーを飲んでため息をつく。
その時、カチャ、とリビングと廊下の間の扉が開く音がした。声をかけようと振り向く。
「おはようございます…ますたー…」
「あれ?」
戻っていた。昨日と違って見慣れたサイズの3人が、何故かげっそりとして、珍しく白ジュナオも飛ぶこともせずてちてち歩いてくる。
「なんだ、戻ったのか」
「戻したんです…」
戻した?出来たのかよ。とりあえず理由は分からないが、ヘトヘトの3人に駆け寄ってしゃがんで目線を合わせた。
「マスター…」
「おいおいなんで泣きそうなんだよ…」
服の袖をきゅっと握ってこちらを見てくるジュナオの頭をあやすように撫でた。灰ジュナオが袖を遠慮がちに摘んできた。白ジュナオは無言で口をぎゅっと閉じている。
「昨日、マスターに怖いと言われてから、何とか元に戻らないと、と思って」
ポソポソジュナオが喋りだした。
「3人で考えたのですけど、強い魔力を注がれた感じがしたので、じゃあ、魔力を放出すれば元に戻れるのではと」
俺が悠長に寝ているあいだに、3人は本気で悩んでいたらしい。そうか、とだけ言って続きを待った。
「なので宝具を撃ちまくればそのうち戻るんじゃないかってなって」
ちょっと待って。
「撃ちまくったの?」
「撃ちまくりました」
撃ちまくっちゃってた。
「え?あの、それは、どこで?」
「上空で…」
そっか〜それならまぁ…と思ったが、ふと先程のニュースを思い出して、スマホを取り出した。北海道、上空で検索する。
『オーロラ!?終末を告げるラッパ、アポカリプティックサウンドが聴こえたという証言も』という見出しが1番に出てきた。
「マスター…」
顔を引き攣らせて記事を読んでいると、ジュナオがまた悲しそうに俺を呼んだ。
「もう怖くないですよね?近づいていいですか?マスター…」
両手をおずおずと広げて懇願するように言ってくるので、そんなに悲しかったのか…と驚いた。
「いいよ。俺も昨日は意地悪言ってごめんな」
そう言うと、さっそく胸に飛び込んできた。灰ジュナオが腕に抱きついてくる。背中にはさっきから白ジュナオがセミのように張り付いていた。
全員の頭を同時に撫でてやりたいが、腕が2本しかないので順番に撫でる。大きいのも新鮮だったけど、やっぱり見慣れたこの姿が落ち着く。
「マスター!今日は一緒に寝てもいいですよね!」
「ああうん」
ぐりぐり頭を押し付けてくる。ネコミミが若干刺さって痛いが、言ったらまた落ち込んでしまうだろうから我慢して撫でた。
「それにしても、一緒に布団入れないぐらいでそんなに落ち込むなよな」
自分も今朝は寂しさを感じたことを棚に上げて笑った。そう言うと、灰ジュナオが珍しく尻尾で叩いてきた。
「あれほど嫌がられるなら、もう大きくならない」
真剣に言われた。嫌がるというか、気圧されてただけなんだけどな。
「ごはん」
後ろのセミが鳴いたので、そうだなと返事をしてキッチンへ向かった。全員をくっつけたまま移動する。うん、やっぱりこっちのが落ち着くな。
小瓶は自室で念の為捨てずに厳重に保管しておこう。友人からの返事も気になるが、色々考えるのはとりあえず後にしよう。
「ごはんにしようか」
未だにぐずぐずな3人を引っ張って歩く。相当嫌だったのだろう、その日から1週間は、そんな感じでひっつき虫になったジュナオたちだった。