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かくして、アルジュナオルタ三兄弟による夏休みの課題は完成した。いや、こと細かく伝えようとすれば伝えられるのだが、意外にも手作業が多かったので過程自体は結構地味なものだった。途中源泉を探してくると灰ジュナオが親指を立てて山奥に消えて行き、2日戻らなかった時は物凄く心配したが、3日後の朝彼は戦士の顔つきでホースを携え生還してきた。なにが君たちをそうさせるんだ。
というわけで、家の外に露天風呂ができた。
「うーんわけわからん」
「マスター!マスター!一番風呂どうぞ!」
額の汗を流しながら、頭にタオルを巻いた職人スタイルのジュナオが「さぁ!」と促す。後ろの白ジュナオもこくこくと頷いていた。
「みんなで入ろうよ」
「最初はマスターです!」
どうしても俺に先に入って欲しいらしい。分かった分かったと宥め服を脱いだ。
普通に家の中の風呂よりデカい。全て木材で作られているので、露天風呂全体が檜のいい匂いがする。
透明な湯に手を入れると、結構熱めの温度だった。風呂場と同じ材料で作られた桶でお湯をすくってかけ湯をする。
ゆっくり脚を入れて、肩まで浸かる。縁に頭を乗せて上を向くと、しっかり屋根まで作られているのでそこから吊るされた電灯が見えた。オシャレな作りだ。自由研究というかリフォームレベルなんだが。
「ど、どうですか?」
ぼやっと天井を見ていたら、窺うように3人が上から顔を覗き込んできた。ぽかぽかして気持ちがいい。
「あったかくて気持ちいいよ。お前ら凄いね、天才」
そう言うと、3人のしっぽが一斉にピンと上に伸びて角がチカチカ光る。何それ、初めて見る喜び方だな。
「自由研究、花丸だな」
「ふふ、そうですね。マスター」
ジュナオが、なんだかすこし改まって姿勢を直した。俺と目線を合わせて、照れたような、気恥しそうな顔で手を後ろに組む。
「私たちがここに来て、一年が過ぎました」
ジュナオは足だけ湯船に入れてバシャバシャと波を立てた。水面は絶えず形を変えて、波紋を波立たせる。
「ここに来て、あなたと出会って、ご飯を食べて、寝て、起きて、遊んで、そしてまた寝て、明日の事を考えて」
後ろで白ジュナオが思いっきり飛んで湯船にダイブした。水しぶきがあがって辺り一面水浸しだ。灰ジュナオが顔面にまともにそれを食らって、放心した猫のような顔になっていた。
「あったかいお布団で、みんなで横になる。お掃除をして、お花にお水をあげる。靴を履いてお散歩をする。冷たい川に潜って、木の匂いを嗅いで、夜空を眺める」
パシャ、と水を蹴る脚を上げて、ジュナオはつま先を見つめながらゆっくりと下ろす。
「マスター、私、かき氷のシロップは、イチゴが好きです」
にっ、と笑って、ジュナオはそのまま湯船に飛び込んだ。さっきの水しぶきで火がついたのか、白ジュナオと灰ジュナオが水をかけあっている間に入って2人を叱りだした背中を眺めてから、反対側を向き湯船の縁に頬をつけて腕を伸ばした。
殺意の高い日差しが照りつける日陰の向こう側に、向日葵が3本揺れている。水しぶきを立てる音が増した背後の騒音を聴きながら、俺はゆっくりと目を閉じた。