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ハロウィンの本来の意味ってなんだったか?もはやそんな疑問すらもテンプレートだろう。ジャックオランタンが描かれたプリント紙で包まれているオレンジ味の飴玉を、指先でつついて転がした。もうすっかり花は散ってしまったが、オレンジ色のカボチャは金木犀を思い出す。散った金木犀の絨毯の上を転げ回ったのか、白ジュナオのふわふわした羊のような髪の毛に絡まったオレンジの花びらを取るのは大変だった。
ささやかだけど賑やかなパーティも終わって、残ったハロウィンの名残をプラスチックのカボチャのカゴに詰め込んだ。飴玉チョコレートわたがしクッキーグミ。調子に乗って買いすぎたか。しばらくお菓子には困らないだろう、灰ジュナオが食べすぎたりしなければ。
はしゃぎ疲れたのか、3人は毛布を被って俺の膝を枕に眠っている。ジュナオの顔にかかったクセの強い横髪を掬ってそのまま頬を撫でた。床暖房って最高。本当はベッドに行くべきなんだろうけど、この幸せな微睡みに勝てるはずがない。俺も3人に混ぜてもらおうか。
起こさないようにそっと位置を変えて、毛布の中に潜り込む。スヤスヤという寝息をBGMに、瞼はゆっくりと落ちていった。








久しぶりの滑車の音と体が揺れる微かな振動で、俺は思わず飛び起きた。夢の中なのに飛び起きるというのは変な話だが。眩しい日差しが海面を照らす光で満ちた列車の中は、変わりなく閑散としていた。
「アルジュナ?」
呼びかける。しかし返事もなければ、アルジュナの姿も見えない。自分の足が床を踏みしめる音だけが響いた。
変わらず列車は走り続ける。向かう先はあるのだろうか。もしあるのだとしたら、そこはどこなんだろう。
しばらく、滑走音と波の音に包まれた寂しい列車の中で立ちすくんでいた。いくら待とうとも、アルジュナの気配は無い。
いつもアルジュナと並んで座っていた座席に横になった。予想していなかったわけではないが、彼はもうここには来ないのかもしれない。そう思うと、こんな夢にもう用はないだろ、と腹が立ってきてしまった。早く目が覚めればいい。
そうしてただ過ぎていく景色と時間の中で、俺はただぼんやりと天井を見つめ続けた。1時間、そんな風にやりすごしていた気がする。陽は変わらず真上にあり、沈む気配がない。
おかしい。いつもならとっくに夕陽が落ちてくるタイミングだ。そしてそれが夢から覚める合図の筈なのに。
不安になってきて、ゆっくりと身体をシートから起こす。すると突然、列車が走行を止めて車体が進行方向に揺れた。
「…え?」
止まった。何だ?何が起きている。恐る恐る立ち上がって俺は車窓の方を向くが、そこは元から無人だ。窓の外の景色も変わらず明るいが、それが逆に不気味だった。
止まっている。完全に動きを止めた列車の中は、もう波の音しか聞こえない。自分しかいない空間で、何をどうすればいいかも分からない。アルジュナがいない。列車が止まった。いつまでたっても目が覚めない。
怖い。自然と服の胸元を握りしめて、俺は立ちすくむ。どうすればいい。
そうやって辺りを見回した時、視界に列車のドアが映った。開けようと思いもしなかったものが開くはずがない、確か、彼はそう言っていた。
そっと窪んだ引手に手を伸ばし、ドアを開ける。するとなんの抵抗もなく、列車の入口は開かれてしまった。
「………」
もちろん、そこには以前と同じく海が広がっているだけだった。ただ、前よりは恐怖を感じない。昼間だからだろうか。それでも海の青は濃くて、底はずっと暗く深そうだった。
「………」
行くしかないのだろうか。もう、俺にはそれ以外の選択肢がないような気がする。またジュナオ達の記憶を見るのだろうか?
意を決して、1歩を踏み出す。踏みしめる地面は無いが。
ドボン!という派手な着水音と共に、意識は水底へと沈んで行った。