幼児化
「かくかくしかじかで詳細は省くが、名前くんがショタ化した!」
「最低な導入ありがとうレオナルド。本当は?」
「ダメだとは分かっていたが、美少年を見たいという欲望に勝てなかった…」
「ちょっと」
「ん〜〜〜っ!見たまえロマニ!このぷにぷにのほっぺた!小鳥のように小さな歩幅!眩い膝小僧!艶やかで美味しそうな瞳!そう、神が創ったのは、整数と美少年ということだよ……!」
「………名前くん、こっちにおいで」
「はぁい」
「あぁっ!まだ抱きしめていたかったのに…!!」
10歳未満くらいなのだろうか。しゃがんだダウィンチちゃんに後ろから抱きつかれていた名前くんが、呼びかけた僕の方へ素直に手を伸ばして歩いてくる。効果音はまさに、てちてちという感じだ。
「どくたー、ちがうんだよ、だいんちちゃんのせいじゃないんだよ」
「どういう事?」
「んー、真面目に話すと、巻き込まれちゃったんだよ。英雄王とその周りの乱癡気騒ぎに」
「名前くん、危ないからもうあそこら辺の奴らには近づかないように。エミヤとかブーディカとかとだけ遊びなさい」
「だびでは?」
「え、なんで今ここでダビデ王が…?」
「さっきあったときアメくれた」
「そ、そう」
子供に飴とかあげられたのかあの人。名前くんは話している間にも、そわそわと忙しなく辺りを見回している。落ち着きのない子供特有の仕草に笑いながらもう一度手招きすると、なんの警戒心もなしに無垢な瞳で見上げて寄ってきてくれた。
「うーん、なんか、記憶はあるのに精神は退行しているんだね…?」
「そうだねぇ、英雄王の持っていた宝物庫の何が名前くんをこんな最高の状態にしてくれたのかは分からないけど…なんにせよ、1日で戻るらしいからね。それまで危なくないように、我々で見てあげるとしようじゃないか」
「まぁ、そうなるか…」
「よろしくおねがいしますっ」
小さな名前くんが小さな頭をぺこっと下げた。見れば見るほど、豆粒のように小さい。
「……風で飛ばされたりとかしないかな……」
「はははロマニそんな馬鹿な……はは………」
「?」
「………………」
「………………」


「……えーと、」
「そうして出来たのが、このハーネスです」
「わんちゃんだ!」
「名前くん!そのわんちゃんはダメかな!よく見てめちゃくちゃ大きいでしょ!ほら、こっちのにしなさい!」
「ワオーーーーン!吾輩がタマモキャツ、猫です!」
「ねこだって」
「合わせてくれないかな!?」

「な、なるほど…名前さんが小さくなってしまったと聞いてマスターと共に駆けつけましたが………」
「いやー、念の為急遽用意しといて正解だったなぁ、子供の好奇心ってとんでもないからね。最近では子供用ハーネスっていうものがあるじゃない?見てみろよ、ロマニが四方八方に引きずられてる」
「かるなのこれもふもふする!」
「名前くんそれ確かにもふもふだけど!もの凄いやばいもふもふだからね!?」
「そうか、よかったな。俺のでよければ好きなだけもふもふしてくれ」
「名前さんこっち!こっち見て!ぁあ〜っ!可愛い!国宝!存在が宝具!!」
「立香くん写真撮ってないで手伝ってくれないかな!!」
「マスター!ずるいです!私も撮ります!」
「マシュ!?!?」
「たこういてる!」
「おおう?!なんでぇ、このちっせぇ生き物は!かんわいいなぁ〜!ちょいと描かせてくれねぇかい?」
「あ〜コラコラ名前くん引っ張んないでっっ!」
「おうまさんだぁ〜〜〜〜!!!」
「いいえ、呂布です」
「名前くんっっっ!!!!!」



「ぜぇ、はぁ、名前くん、君、小さい頃は、おてんばだったんだねぇ………」
「どくたーごめんね」
目につくものに片っ端から興味を持って近づいて行ってしまう。精神の方が自我を引っ張って行ってしまうみたいだ。名前くんは情けなくも日頃の不摂生から体力のない僕が肩で息をしているのを見て、申し訳なさそうに項垂れた。
「いいよ、ほら、歩き回って疲れただろう。休憩しようか」
「んー…」
目を擦りながら小さい口を尖らせて、うつらうつらと揺れる体を何とか動かし、名前くんは歩き出す。唐突に電池が切れたように眠気が襲ってきたのだろう。
「ほら、抱っこしてあげる。おいで」
「…ん」
手を広げて構えると、頬をリンゴみたいに赤くしながら名前くんは両手を上げて僕を見上げる。その両脇を持って軽い体を持ち上げ、腕に抱いて背中をよしよしと撫でた。
「わぁ…ドクター、おとうさんみたいですね」
「ぐっ…マシュ、その、褒めてくれてるんだろうけどね、僕はまだそんな歳じゃ…」
「いやキミ、そんな歳だろ」
レオナルドの追い打ちが心に刺さる。そんな僕に抱っこされている名前くんは、既に半分夢の中だ。子ども体温で触れている所からポカポカと暖かくなってきた。
「フォルダ凄いことになっちゃった」
「先輩、あとで私の撮ったものと交換しましょう!」
「こらそこ、あとで名前くんが元に戻ったら泣いちゃうから、今のうちに全部消しときなさい」
「いやだ!この写真は…死んでも守る!」
「立香くん…」
そこでそんな男らしい顔しなくても…。
そうこう話しているうちに、肩口に顔を埋めた名前くんからすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃいましたね…」
「ふふ、可愛いね」

「一応は見に来てやったが、どうという事もないではないか」
「えっ」
いつの間にか、名前くんの寝顔を眺める輪に前髪を降ろしたラフな格好のギルガメッシュが加わっていた。相変わらず行動が突飛で予測もつかない。
「英雄王も心配で見に来たんです?」
「たわけ。一応と言ったのが聞こえなかったのか?決してセイバーに"自身の不始末さえ面倒を見きれないとは、ますます見損ないました"と煽られたからではないからな」
マスターからの質問にほとんど正解で答えた金ピカ王が、健やかに寝息を立てている名前くんを見て、存外穏やかな顔で「フン」と腕を組んだ。
「阿呆みたいに無害な雑種顔よな」
「マイスイートエンジェルです」
「立香くん、名前くん死んじゃうから、元に戻った時そのテンションのままでいかないでね」



「ほれ雑種、この我が飴をくれてやろう。こうべを垂れて平伏し王様バンザイと唱えろ」
「え、は、お、王様バンザイ…」
差し出した手のひらに、宝物庫からぱらぱらと飴が降り注いでくる。呆気に取られてこんもり飴の積もった手のひらを眺めた。なんだ?なんのイベントなんだこれは。俺は死ぬのだろうか?
「まったく、何故我が雑種なんぞに詫びねばならん………」
英雄王は説明もせず、そのまま最早俺に興味も無さそうにスタスタと歩いていってしまった。俺は今彼から何か詫びられたのだろうか。それらしい言動が思い出せなかった為脳がバグりそう。
昨日のことはよく覚えていない。ドクターには疲労で倒れていたとだけ聞いたけど、それならまぁよくある事だし気にしないのだが、何だか一部のサーヴァント達からの視線が妙に暖かい。すごいソワソワする。
「なに…なんなの…昨日やっぱなんかあったんじゃ…」
落ち着かず食堂で人の少ないテーブルに座る。後でドクターをもう一度問い詰めてみようと頬杖をついていると、目の前に誰かが何かを置いた音がして視線を落とす。
「……………」
小さなハンバーグにケチャップソース、フォークで1回巻きとったら消えそうなトマトソースパスタにエビが1つ入ったミニサイズグラタン。プチトマトが2個乗って、その脇にマカロニサラダかちょこんと添えられている。そしてフルーツゼリーが小皿にデザートとしてセットされていた。
「…………エミヤさん、これは」
「いや、これはだな、決して私が事情を知るのが遅くなり事態を教えられた時には君はもう元に戻っていたが、マスターに見せられた写真のせいでどうしても作りたくなってしまったとかそういう訳では………ハッ!!!」
唐突にエミヤは目を見開きその場から瞬時に消えたと思ったら、何かを片手に直ぐに戻ってきた。その何かをエミヤはそっとハンバーグの上に突き刺す。
「旗が足りなかったな。私とした事が……」
「ドクター!!!ドクター!!!説明しろっ!!ドクタァーーー!!!!」