ロマニ
「あっその位置はダメ!」
「聞こえませーん」
右端の角を取って横と斜めと下を白から黒へぱちぱちひっくり返す。みるみる盤上が黒くなっていくと、ドクターは「ぐぬぬぬぬぬ」と唸った。
「ひどい!ひとでなし!いじわる!」
「はっはっは悲鳴が心地よいわ」
オセロの横に置いてあるお菓子をつまみながら余裕の高笑いをキメた。「絶対勝つ…」と呟いて、ドクターは空いているマスを睨みつける。
真剣に勝ち筋を熟考しているドクターには悪いけど、この並びはもう俺の勝ちだ。こういう類のゲームは得意なので、今日のところは俺とドクターの戦績は5勝0敗で俺の勝ちである。ふふん。
暇なので目の前にいるドクターの顔を眺める。何故だか声高に言われることも無いけど、綺麗な顔をしている。背だって高いし、手も大きくて指が長く形がいい。女子スタッフもそれとなくそういったことを言っていたような気もするけど、必ず最後に「まぁでも、ドクターはね」「ふにゃふにゃしてるもんね…」「デコピンで倒せそうだよね」とか散々言われて終わってしまう。
「デコピンくらいはHP1で耐えられるよね…」
「え、なんの話…?」
口に出ていたらしい。なんでもないと言って視線を逸らす。まだ置き場所は決まらないらしい。暇なのでオセロの石を持っていない方の、テーブルに置いたままのドクターの手で遊ぶことにした。
手袋の上から人差し指の先をツンツンつついて、指先だけでクイッと上に上げたり下げたりする。そのまま左右に動かしたりして遊んでいたら、やっぱりドクターの手は俺より大きく見えた。真相を探るべく、俺は指と指を絡めて、ちょっと持ち上げてにぎにぎした。…やっぱり大きい。親指だけ重ね合わせて比較すると分かりやすかった。
「はは、ロマニ見て、結構違うね大きさ」
しばらく手だけ見て遊んでいたら全く反応が返ってこなかったので不思議に思いながらドクターの方を見ると、石を手から落っことして目を手で覆い下を向いていた。可哀想に、ようやく俺に勝てないことが分かったようだ。
「哀れな…最初から勝敗は決まっていたのに…」
「違うそうじゃない、っああもうっ集中出来ないでしょ!妨害行為で名前くんの反則負けだから!」
「なんで」
いいじゃんそっちの手使ってないんだから。ぶつくさ文句を言いながらも仕方がないので手を離してあげた。ドクターは「全くもう…」と言って再び盤上に視線を戻す。だからもう俺の勝ちだってば。
「ねー暇。暇なんだけど。はやくはやくはやく」
「子供か!ていうか僕の番なんだから静かにして!」
ちぇ。潔く負けを認めればいいものを、まだ食さがるらしい。机の下の脚をじたばたさせると、ドクターの靴にぶつかった。
「あ」
「…ちょっと、何思いついたって顔してるのかな」
手がダメなら脚で遊べばいいじゃん。俺は天才だな。小さいテーブルなので近い距離にあるドクターの右脚を挟み込んだ。そのまま前後に動かしたり、上下に擦ったりしていたら、逃げるように引っ込めようとするのでそれをまた追って挟み込む。
「逃げるな逃げるな」
「だ!か!らぁ!」
べしっと投げやりにドクターはやっと石を置いた。それを見届けて、ふふんとトドメの1個を置いた。
「はい、俺の勝ち」
盤上の石は全て黒。あ、と言って固まったドクターに、にやにやしてしまう。
「次こそ負けたら相手の言うことなんでも1個きくって言ったよね?」
「卑怯だ…」
何も卑怯なことなんてしていない。心外だけど、俺の勝ちなので許してあげよう。
「どうしよっかなっどうしよっかなっ」
「…お手柔らかにね」
諦めたのか、ドクターは肩を竦めてため息をついた。候補はいくつか考えてたけど、どれも迷うな。
「あ」
思いついた。テーブルに手をついて身を乗り出す。手を伸ばして、その柔らかいオレンジ色の髪の毛を触ると、ふわふわして気持ちがいい。
「え?え!?」
混乱しているドクターに、けっこう重たいポニーテールを持ち上げてにやっと笑った。

「ツインテールにさせて」



「アハハハハハ、かわ、かわいっ、かわいい〜!!!」
「ゆるさないからな…絶対にありとあらゆる意味で覚えていろよ…!!!」
なんか言っていたけどツインテールだから全然怖くなかった。あーあ、楽しかった。