「名前くん、そんないっぺんに持たなくていいから」
「大丈夫ですよドクター、俺だって男なんですし、これくらい楽勝楽勝ヴァッ」
「フラグ回収はやーーーーー!!!!!」
「これ折れてるね」
残酷すぎるキッパリとした宣告に俺は泣いた。利き腕が見事にグルグル巻きにされている為涙も拭えない。レントゲンを撮ってくれたドクターの目の前で普通に泣いてしまった。
「えーん…」
「よしよし」
それにしてもマヌケすぎる。まさかずっこけて利き腕骨折とか。
「障害物もいっさいない平面で転んだもんね」
「えーん…」
「よしよし」
そろそろ真剣に考えなくては。これではできる仕事も限られてくるし、みんなに多大な迷惑をかけてしまう。
「正直いい機会かな。名前くんどう考えても働きすぎだし。休暇だと思って治るまで大人しくしなよ」
「え゛っ」
そんなの申し訳なさで死んでしまう。もうなんでもいいからと片腕でもできることはないか、スタッフの皆に聞いて回った結果。
「名字くん、危ないから座ってて」
「ない。部屋で寝てなよ」
「それよりチョコ食べない?はいアーン」
「何も無いとこで転んだってマジ?」
全敗だった。結局管制室から追い出されるし。悔しくて口の中のチョコを噛み砕きながらとぼとぼ廊下を歩いた。
「うわアンタなによそれ」
「折れました」
ぎょっとした顔で俺の腕を指さしながら、向かい側からやって来たジャンヌオルタがはぁ??という顔をしていた。
「何があったわけ?別にどうでもいいですけど、一応聞いてあげるわ」
「なにもないとこでころんだ」
「ばーーーーかじゃないの????」
分かってるけど改めて言われると心がしんどかった。項垂れて涙を堪えていると、「あぁもうっ」と言ってジャンヌオルタが折れていない方の腕を引っ張る。
「どうせアンタ今仕事できないんでしょ?じゃあちょっと付き合いなさいよ」
「俺のような者にでも務まるでしょうか…」
「アンタめんどくさいわね!」
ジャンヌに言われたくない。
「こんなに食べるの?」
「今日は食べたい気分なの」
ツンとそっぽを向いて答えるジャンヌオルタと俺の目の前には、ズラリと並んだ料理の数々。フレンチが多いのはジャンヌオルタの好みだろうか。
「細いから怪我すんのよ…」
「え?」
「なんでもないから。食べなさい。1人でこんだけ食べるの恥ずかしいじゃない。食べるくらいなら今のアンタでもできるでしょ」
よし、と意気込んで左手でフォークを握る。そして目の前にあるサラダのブロッコリーに突き刺そうとして手を滑らせた。
「あ」
バコン!と音をたててブロッコリーが明後日の方向に弾丸のように飛んでいく。そしてトレーにデザートを乗せて歩いていたエミヤの右目に直撃した。
「うっ(幸運E)」
「エミヤー!」
「馬鹿かね君は」
「すみませんでした…」
俺たちのテーブルにデザートを並べたエミヤが俺の有様を聞いてため息をついた。ブロッコリーはスタッフが美味しく頂きました。
「不器用すぎ。左手で食べれないなんて右手が治るまでどうやって生き抜く気?」
ジャンヌオルタのおっしゃる通りだった。しかし自分だって何も考えてないわけじゃない。
「ゼリー飲料とかで…」
「そんな生活を許すと思っているのか?」
ギロっとエミヤに睨まれ縮こまる。カルデアの栄養士は厳しい。
「アンタキャップも開けられそうにないけどね」
「ハッ…」
絶望した。もう干からびて死ぬしかない。
「俺はもうダメなんだ…今までありがとうみんな…」
「なんでそうなんのよ」
呆れたように吐き捨てたジャンヌオルタが魚料理をフォークで突き刺すと、ずいっと俺の口元に差し出した。
「え」
「なによ。なんか文句あんの」
ぶすっとした顔で睨みつけながらもフォークを近づけてくる。意味を理解して顔がどんどん熱くなった。
「た、食べれるよ自分で」
「どの口が言うのよ」
うんうんと隣で片目を抑えながらエミヤが頷いている。ほんとすみませんでした。
「だ、だって」
「いーから食べなさい!」
「んむっ」
焦れたのか口を開けた瞬間にフォークを突っ込まれたので、放り込まれた魚を頑張って咀嚼する。
「ん〜っ!んんんっんん」
「は?何?可愛いんですけど(何言ってんの?)」
「逆じゃないか?」
ようやく噛み終えて飲み込めた。既にもう次の料理を運んでこようとするジャンヌオルタに待ってくれと後ずさった。
「いい、いいよ!恥ずかしい!」
「言ってる場合?治るまで続くんだから、観念なさいよ」
「だっ!だって…人多いし…」
そう、ここは食堂で、周りにはサーヴァントも職員も結構な人数がいる。ただでさえ腕が大袈裟にグルグル巻きなので視線が痛いし、俺とジャンヌオルタを遠巻きに見ているのがなんとなくわかってしまう。
「…ふぅん、なら部屋でならいいわけ?」
「それは…」
それはそれで恥ずかしいんですけど。でもよく考えたら食べさせてもらう分際で何をという気もしてきた。え?ていうか治るまでやるの?嘘でしょ?
そこに突然、後ろから誰かに左肩を掴まれた。
「話は聞かせてもらったぁ!」
「わぁ!?」
「レオナルドダヴィンチか。何か?」
声の主はダヴィンチちゃんらしい。ふっふーん、と何故か俺の頬をつつきながら喋りだした。
「全治2ヶ月くらいかな?まぁ安静期間込みだから実際は1ヶ月ちょいだけど。その間、君の世話をしてくれる人を募集しよー!」
「いないよそんな、」
「はーーーい!はい!はーーーーい!」
「わ、わたしも立候補しますっ」
めちゃくちゃ元気に返事する人いた。誰だよ!と振り返ると、立香くんが身を乗り出してすごくいい笑顔で手を振っていた。その隣ではマシュが遠慮がちに手を上げている。
「手が空いているときなら私も構わないがね」
エミヤが続いて片手を上げた。
「仕方ないわね。いや本当に仕方ないわ。仕方ないのよこれは」
どんだけ仕方ないんだ。そう言いつつもジャンヌオルタも片手を上げている。
「では私も名乗り出ましょう」
今まで静観していた隣のテーブルのガウェインがニコニコと爽やかに片手をあげる。
「ふむ。俺でいいのなら」
「ふむ、私も構いませんが」
「「…む?」」
カルナとアルジュナが端の方の席から同時に手を挙げ声を揃えて言ったあと、互いに顔を見合わせていた。すごくシンクロしたな。
「ちょっと!」
後ろの方で声がした。振り返るとドクターが食堂の入口で壁から覗くようにこちらを見ている。
「僕がお医者さんなんだけど!よってそういうのは!僕でいいと思う!うん!」
「職権乱用だー!」
「引っ込めー!」
「なんだとうー!」
わーわーと騒がしくなってきた。俺はもうこの空間から脱出できるならロケットに乗って宇宙空間にでも行きたい。
「で、君はどうする?」
ダヴィンチちゃんが後ろからそっと耳打ちをしてくるのでくすぐったくて身をよじる。周りを見渡すと、いつの間にかみんなが俺の方をじっと見ていた。
「あ、ああああの」
一言も喋らずに、俺の言葉を待っているみたいだ。無駄に緊張するし、頭に血が昇って沸騰しそう。
ぐるりとその場のみんなの顔を見渡すと、最後に壁越しに覗くドクターと目が合った。
「…ドクタ〜…。たすけて…」
「!…はいはい。もうみんな騒がない!レオナルドもあんまり名前くんで遊ばないこと!まだ腕痛いんだから、医務室戻るよ。ほら」
集まった観衆の中から俺を引っ張りあげて、先導して席から離れる。後ろからみんなが何か言っているけど、申し訳ないと思いつつ引っ張ってくれるドクターに便乗してくっついて歩いた。
「全くもう、横になってなさいって言ったのに勝手に出ていくからだよ」
廊下に出て少し歩いた後、ドクターは腕組みをしてこちらを見た。申し訳ない。ごめんなさいと言って頭を下げると、はぁ、とため息をつかれた。
「さっき言った通り、一通りの看病は僕がするから。食事とか着替えとか、シャワーが浴びれるようになったらシャワーもね」
「う、すみません…本当に…」
情けなー!穴があったら入りたい。そんでもって埋めて欲しかった。
「ドクター…」
「はいはい、何かな」
手を繋いでる左手に力を込めた。自分より少し背の高い目線を見上げる。
「やっぱりドクターが1番安心する…」
「…はいはい」
ドクターは手を引っ張って少し先を歩いた。俺もその背中を追うように、揺れるポニーテールを見つめ歩いた。