ズルいひと3
仕事が終わって、木林さんに連絡をすれば「下でお待ちしてます」と言われ外に出れば、スポーツカーの前に立つ木林さんが居て。服装もいつものフォレスト葬儀社の物ではない。黒のチェスターコートにモスグリーンのニットを合わせ、黒いスキニーに足元はレザーシューズ。跳ね上げ眼鏡もしていない。いつもらかっちりしている髪型は、お洒落にセットされている。
「苗字さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です…」
微笑んでそう言ういつもと違う彼に、ドキドキしてしまってる。東海林さんと三澄さんに髪のセットとメイクしてもらっておいて良かった…!助手席の扉を開けてエスコートしてくれるその仕草に緊張しながらも車に乗り込む。しばらく車を走らせ、連れてこられたのはカジュアルなイタリアンダイニングだった。
「こういうお店の方が気兼ねしなくていいかなと思ったんですが…」
珍しく不安げな表情で聞いてくる木林さん。
「こういうお店、好きですよ」
なんてにっこり笑って返せば、彼はほっとした様子で何だか可愛く見えた。木林さんが店員さんにコソコソと何かを告げ、席に案内され付いていくと 横並びで座るソファー席だった。所謂、カップルシート…。
「え、っと…」
「何か?」
ニッコリ、そんな表現がぴったり合いそうな顔で言われてしまえば何も言えない。それからは、注文して美味しくご飯を食べて楽しく過ごした。食事も終え、帰る間際までは。
「名前さん、あれから少しは私の事意識してくれていますか?」
「さぁ…どうでしょうか」
「おや、つれない人ですね」
努めて冷静に返したものの、また手のひらにキスをされ顔が熱くなる。本当にこの人は…!!
「この間から、何度も手のひらにキスをするんですね」
「貴方が振り向いてくれるまで、何度だってしますよ」
「…こまります」
「貴方を困らせたいんです」
そう言って、耳・喉とちゅ、とリップ音を鳴らしキスをされる。
「ちょ、や…っ!」
「耳と喉、弱いんですね」
クス、と笑いながらそう言うものだから、素直に気になっていると言ってしまうのも、認めてしまうのもなんだか悔しい。暫くは気にしてないフリをしよう。
帰りは家まで送ってくれて、先程までの言動とは裏腹に紳士的な木林さんだった。
「そういえば、先程のキスの意味教えていませんでしたね」
「意味、あるんですか…」
「はい。耳が誘惑、喉が欲求、です。
貴方が欲しくてたまらないから、
懇願するのです。
貴方が愛おしくてたまらないから、
困らせてしまうんですよ。」
あぁ、もう。この人は。