貴方の名前


解せない。なんとも解せない。
私が六郎くんやミコト、ラボのメンバーの名前を呼ぶ度に酷くなる貧乏ゆすりと舌打ち。そもそも中堂さんだけ苗字で呼んでいるのは、”公私混同するなクソが!”と、お得意の”クソ”を付き合い始めの頃に頂戴したのだ。それも、ラボメンバー皆の前で。解せないぞ、中堂系!

小さく溜め息をついて仕事に取り掛かれば、視界の隅っこで身を寄せてコソコソ話している六郎くんと夕子さん。

「あの…東海林さん、中堂さんさっきから貧乏揺すり凄いんですが。舌打ちしてるし」
「ねぇ〜!中年の嫉妬は見苦しいわよね」
「えっ?嫉妬?」
「名前と中堂さん、あのふ・た・り 付き合ってるからねぇ〜。大方、自分だけ名前で呼ばれてないのが気に食わないと見た!」

「あー、二人内緒話して怪しいんだっ!」
「うわっ!名前さん?!」

夕子さんと六郎くんに近寄って声を掛けてみれば大袈裟に驚かれた。うわって、さぁー…

「そんな化物でも見たみたいに驚かないでよ。傷付く!」
「す、すいません。中堂さんと付き合ってるんですね、名前さん」
「うん、まぁ。今はあの人の我儘をどう対処しようか悩んでるんだけど。」
「ぶふっ!苗字で呼ばれてる理由も忘れてそうよね」

私も身を寄せて2人とコソコソ話に混じれば、夕子さんが吹き出しながらそう言う。そう、そうなのだ。中堂系って男は、死んでいる人間の事ならお任せあれだけども、如何せん生きている人間の事になるとニブチンすぎて困る。


―――仕事も終わらせて家に帰ってきた。
今日も1日お疲れ、私。
お風呂のお湯が溜まるまで少し休もうと
座ってボーッとしていたら、背後の玄関から聞こえる鍵を開ける音。

「名前」
「お疲れさま」
「…あぁ」

名前を呼ばれて少しだけ振り返って言えば、首元に腕がまわり抱き締められた。

「いっ…!」

首筋をあぐっと噛まれて痛みに振り返れば、不貞腐れたような表情の中堂さん。

「どうしたの?そんな顔して」
「どうしてアイツらは名前で呼んで、俺の事は苗字なんだ」
「どうしてって、貴方が付き合い始めの頃に”公私混同するなクソが!”って言ったんじゃない」

そう言えば、きょとんとした顔をしていて。夕子さんの言った通り、忘れてたってわけね。考えてるうち思い出したのか、顔を逸らして小さく舌打ちされて、今のは少しイラっとした。

「ねぇ、舌打ちは無いとおもう」
「……わ、悪かった」
「ふふ、素直に謝ってくれたから良いよ」

胡座をかいた中堂さんに後ろから抱き込められ、首筋にぐりぐりと頭を擦り付けられる。こういう時の彼は猫みたいで可愛い。

「…名前 名前、呼んでくれ」
「けい、系、すきよ、系」

首筋にぐりぐりと頭を擦り付けてきていた動きが
ピタリと止まって、後ろを振り返れば耳を赤くしているのが見えて 不覚にもきゅんとしたのはナイショ。


「ねぇ、お風呂一緒に入ろうか」
「馬鹿か」
「そんな事言ってても、一緒に入ってくれるんでしょ?」
「…うるせェ」