水とパン











手術を終えた途端 ローは眠ってしまった。
輸血用の針が抜けないように見ててくれって
ベポに言い残していたから
私もベポも2人の事をジッと見ていると
気付いたらもう外は夜になっていた。



「ん…」

「ロー お疲れさま。2人ともまだ寝てるよ」

「麻酔がよく効いたんだな。」



ローは2人の様子を見た後、
注射器に粉末を水で溶かしたものを入れて刺した。
するとずっとソファで休んでいたヴォルフが声をかけた。



「ロー、ガキどもの具合はどうだ」

「じいさん、起きてたのか」

「ふん。ワシの家で死人が出たらと思うと落ち着かなくてな」

「大丈夫だよ。おれのオペは完璧だ。
あとは、感染症とかに注意しておけば問題ない」

「そうか……よかった」

「よかった?へえ、珍しい台詞を吐くじゃねェか。
あんたが得することは、何もないのに」

「……子どもの命が助かったのなら、
それは十分な見返りじゃろう」 



そう言って、ヴォルフは顔をそむけた。
ヴォルフの優しさに私とローは顔を見合わせて笑った。










ーーーーーー…*°



手術してから四日後 2人はようやく目を覚ました。

キャスケットのお兄ちゃんはお腹を手術したから
体力は落ちてるけど少しずつ回復出来るらしくて、
皆んなが緊張していたのはペンギンのお兄ちゃんの
千切れた腕の手術だった。

縫った痕が痛々しいけど、
千切れて離れた腕をもう一度付けたローは
本当に凄い医者なんだと思った。

指をゆっくり1本1本動かす事が出来て
ベポも嬉しくなって泣きながら
ペンギンのお兄ちゃんに抱き着いて
お兄ちゃん達も泣いてローにお礼を言っていた。



「別に、単なる気まぐれだ」



ローはそう言ってくるりと後ろを向くと
口元は緩んでいたのを私だけ知っている。

それからの食事はキャスケットのお兄ちゃんは
お腹の手術をしたから気を配らなきゃならなくて
淡白な魚やお肉を柔らかく煮た野菜スープをあげて、
利き手がままならないペンギンのお兄ちゃんは
私がフーフーして食べさせてあげていた。

それから一週間が過ぎた頃、2人の体力は戻ってきて、
私とベポでお手伝いしたペンギンのお兄ちゃんの
腕のリハビリも順調だった。
やっと状況が落ち着いてきたから
ローとヴォルフは2人に話を聞く事になった。



「ガキども!まずは改めて自己紹介をせい!
今更だが、ワシはヴォルフ。天才発明家・ヴォルフ様じゃ!
敬意をこめて呼ぶように!」

「あー、お前らこのじいさんの言うことは適当に流しとけ。
実際はただのガラクタ屋だ」

「やかましいわ、ロー!話の腰を折るんじゃない!」

「わーったよ」



ローはすっかりヴォルフを雑に扱うようになった。
それほど仲良くなった証拠なんだ。
プンプン怒るヴォルフも面白くて私はケラケラ笑った。

2人は一度顔を見合わせて、自分の名前を教えてくれた。
キャスケットのお兄ちゃんがシャチ。
ペンギン帽のお兄ちゃんは本当にペンギンって名前だった。
2人はまだ緊張していて背中が丸まって小さくなっていた。



「シャチとペンギンか。そうじゃな、まずは
どういう経緯でこんな怪我をしたのか、話してもらおうか」

「……俺とシャチは、森の奥に小屋を建てて、
二か月くらい前から暮らしてるんだ」



まだ腹の傷が痛む様子のシャチに代わって、
ペンギンが話し始めた。



「俺もシャチも狩りはそれなりにできるし、
冬でも実のなる木が生えてたから食い物には困らなかった。
だけどあの日、狩った鳥の肉を焼いて食ってたら、
その匂いにつられたのかイノシシが
いきなり飛び出してきて……あんまり急だったから、
おれたちはオロオロしちゃって……
イノシシの突進で、シャチが腹をえぐられた」



そこでペンギンは、疲れた様子で、大きく深呼吸をした。



「焦らなくていい」



そう言って、ヴォルフはペンギンに水を差し出した。



「……すぐにイノシシはおれの方に向かってきた。
逃げることもできたけど、
シャチを放っておくわけにもいかなくて、
仕方なく俺は持ってた爆弾を小屋から取り出して、
投げつけようとしたんだ。
でも、それが手元で爆発して……」

「大怪我を負ったというわけじゃな。
小僧、何故お前は爆弾を持っていた?」

「……町で盗んだ。森で暮らすんだったら、
危ないことが起きた時、役に立つと思って」

「なるほどな。盗みはよくないが、獣
への対処という意味では、理に適っておる」 



そう言ってヴォルフは紅茶をひと口飲むけど、
私はどうして2人で暮らしてるのかなと思って
思わず……、



「2人は…」

「お前ら、親はどうしたんだ?」



私が言いかけた言葉をローが代わりに聞いた。
「シャチの親も俺の親も、半年前に死んだ」、と
ペンギンは答えた。2人は兄弟というわけじゃなくて
別々の家で生まれて両親同士が仲が良く
一緒に海岸でバーベキューしていたら
大きな波に両親は飲み込まれて亡くなってしまったらしい。

それぞれの親族での話し合いが行われた結果、
2人はシャチの叔父と叔母の家に
預けられることになったけど、
その家では違法とされている武器の密輸や
宝石店での窃盗を無理やりやらされたこと。
食事は水とパンしかもらえなかったこと、
そんな話を聞いて、私は愛されなかった
あの頃の暗い部屋を思い出して
思わずベポにしがみついてソッと隠れた。



「俺たちは、まともな人間として扱われなかった。
あいつらにとって、俺とシャチはただの奴隷だった!
だから、家を出たんだ。だけどおれたちに行き場はなくて、
金を稼ぐアテもないから森に小屋を建てて、
そこでもまともな暮らしは送れなくて……
俺はもう!生きてる意味が分からないっ!!」



ペンギンは泣いた。
下を向いて、声を殺すようにして泣いていた。












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