町へ行こう










ヴォルフは毎朝8時に家を出て、
歩いて30分くらいのところにある研究所へ向かう。
ここ一か月ばかりは町の方に何か用事があるらしく、
暗くなってから帰ってくることも珍しくない。



「何やってるのか知らないけど、ヴォルフ平気かな?
発明もやって、町にも出かけるような暮らしで、
疲れてないか心配だよ」



ベポが素朴な疑問を口にした。



「問題ねェよ。ガラクタ屋の身体は特別製だ。
今朝も楽しそうに発明品の話をしてたぜ。
『もうすぐ、お前たちに空からの景色を見せてやるわい!』
とかなんとか言ってたな……」

「そっかー、元気ならそれでいいんだけど」



ヴォルフが出掛けている間
仕事の役割り分担が出来るようになった。
人も増えたから空き時間も増えてきて
私はベポにマフラーを作ってあげてる。
ベポは航海術を勉強したり格闘の特訓したり
シャチとペンギンはローに剣術を学んだりして
時々私も砲術を教えたりする事もある。
皆んな協力して助け合っていた。

そうして夜になったらヴォルフの帰宅を待って
ご飯を食べて、その日にあったことを話したりした後、
ぐっすりと眠るという生活リズムが出来ていたけど、
そんな生活も長くはなかった。



「明日、全員でプレジャータウンに行くぞ」



ある日の夕食後、ヴォルフは真面目な顔でそう言った。



「前に約束したのを覚えているな。
ワシの手伝いだけでなく、町でも仕事に就いてもらう
という話だったはずじゃ。
お前たちがここへ来てから二か月以上が経った。
そろそろ、約束を守ってもらおう。
あくまでワシらの関係はギブ&テイク。
この先もここで暮らすのなら、
ちゃんと家賃と食費は払ってもらう。」



ヴォルフが真剣な表情で言うから、
私たちの表情は強張っていて
ついに来たかといった感じだった。

ヴォルフはもう寝ると言って部屋に戻った。
明日朝から行くらしい。急な事だった。
私たちも食事を済ませて寝る支度をした後
久しぶりに静かな夜だった。



「なあ、ローさん」



そんな中、ベポが弱々しい声でローの名前を呼んだ。



「町、行かなきゃ駄目かな……?」

「……じいさんの言ってることは筋が通ってる。
俺たちは最初に、町で仕事に就くって約束したんだ。
だったら、それを無視するわけにはいかないだろ」

「でもおれ、おっかないよ……。
喋るクマを見た町の人の反応を考えると、
どうしても身体が震えちまうんだ」

「じゃあ、いつまでもこの家で、
じいさんの世話になって
ぬくぬく暮らしてるだけでいいのか?
それはやっぱり、違うだろ。
外に行かなきゃ、何も始まらねェ」 



外に行かなきゃ、か…
ヴォルフは私たちを外の世界に触れさせようと
そういう意味で働いてもらおうとしてるんだと思った。
私たちはまだヴォルフ以外の大人が怖いから。
それはこの中でローが一番分かってると思った。
だから踏み出そうとしているローは凄いな……



「シャチ、ペンギン。プレジャータウンってのは、
治安が悪かったりするのか」

「分かんねェ……俺たちはシャチの叔父さんの家で
暮らしてたけど、なるべく町の人と
関わらないように言われてたから…」

「俺たちが外に出る時は、
ほとんどが密輸してる武器の引き取りに行かされるとか、
店に盗みに入らされるとかで、
まともに町の人と話したことはないんだ……。
ローさん、俺、やっぱ行きたくねェよ。
俺もペンギンも、ずっと悪いことしてきたんだ。
顔だって覚えられてるかもしれないし……それに、
叔父さんや叔母さんに見つかったらって考えるだけで、
心臓がばくばくするんだ……」

「ーーー…大丈夫だ。」



ローは大人を怖がっている3人の為に
病気だった頃の自分に起きた、
大人による迫害を受けた話をした。
辛い話なのに落ち着いて淡々と
3人を勇気付ける為に話したんだ。



「ローさん、そんなことがあったのかよ……
全然知らなかった……」

「別にわざわざ話すようなことでもないだろ。
病気はもう、完全に治ってるんだしな。
俺が言いたいのは、お前らも強くなるしかないってことだ。
俺はたしかに迫害されたし、酷い目にも
たくさん遭ってきたけど、こうやって生きてる。
明日町に行って、俺たちは嫌な思いをするかもしれない。
けど、そんなもんにビビってたら、
お前らはいつまで経っても前に進めない!
周りの目を気にしてビクビクしながら生きていくしか
なくなっちまう。そんなのは、違ェだろうが」



暗く沈んでいた三人の表情が、
少しだけ明るいものに変わる。



「うん……うん……!俺、がんばるよ!
ちゃんと町の人と話して、働けるところ見つけるよ!」



そう言って、ベポが硬く拳を握った。



「ああ、それでいい」

「へへっ。なんか、気が楽になったよ。
ありがとな、ローさん。やっぱ、あんたはすげェや。
俺がローさんの立場だったら、
ビビって町になんか行けねェもん」

「アメリ、お前は大丈夫か?」

「うん。人と関わるのは怖いけど、
皆んなが頑張ってるなら私も頑張る」

「よし、それじゃとっとと寝るぞ。
寝坊でもしたらまたじいさんに
クドクド説教されるだろうからな」

「「「アイアイサー!」」」

「アイアイサー!」



シャチとペンギンもベポみたいな返事をするから、
私も釣られて同じように返事をした。

明日 初めて町に行く。
仕事をするってことは人と関わっていかなきゃいけない。
私のことは絶対に隠さなきゃいけない。
じゃないとまた色んな人が殺されたらと思うと
怖くて、私はローには強気な事を言ったけど
布団の中では拳を握り締めて震えてた。












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