初めての町










今朝はアメリが焼いた目玉焼きと米を食べた。
昨日の夕食の時みたいに静かな食卓だった。
じいさんはほとんど何も喋らない。 
……ちっ、なんだよ、
少しくらい言葉をかけてくれたっていいだろうに。
じいさんだって、俺たちがビビってるってことくらい
は分かってるはずなんだ。なのに……。
俺の中に、小さな疑念が生まれてしまう。
ヴォルフも結局はそのへんのW大人Wと一緒で、
金を稼ぐ道具として俺たちを使おうとしてるんじゃないか?
けど、この数か月間、俺たちに見せてくれた優しさに、
噓が混じってるとも思えなかった。 
……分からない。ヴォルフの考えが読めず、
俺は不安な気持ちを隠せずにいた。



「時間じゃ、出発するぞ」



町へはヴォルフが開発したバギーという
大きな乗り物に乗って移動した。
俺は助手席に乗って後ろでアメリ達が何か話しているが
どことなく元気がない。

分厚い雪中を颯爽と進んで、
バギーは、WプレジャータウンWと書かれた
看板の前で止まって皆んな降りた。

「ほれ、行くぞ」とヴォルフが言うと
皆んなヴォルフの後ろをついて行き、
町の中へ入り、進んでいく。



前に来た時は気づかなかったけど、あちこちから
食い物や道具を売る商人たちの声が聴こえてくる。



「今日はいい魚が獲れてるぜ!買った買ったぁ!!」

「うちの肉は最高さ!
今なら特別サービスで三割引きで売ってやるよっ!!」



大きな広場では朝っぱらから踊ったり歌ったりしていて
まるで祭りが開かれているみたいだった。
あたりを見回してみると、タトゥーを彫る店や
占いの館、それに楽器や絵本の専門店まである。
あまりのにぎやかさに、ちょっとばかり圧倒されてしまう。
でも、何より驚いたのは町の人たちの
ヴォルフに対する態度だった。



「よお、ヴォルフ!久しぶりじゃねえか!
ちょうどあんたの発明に使えそうな品が
入ったところだ、買ってけよ!」

「おお、あとで店を覗いてやるわ」

「ヴォルフさん!あらあら、
後ろに連れている子どもたちはなあに?
ヴォルフさんの孫だったり?」

「あほう! こいつらは単なる居候じゃ!」

「あら、そうなの。へえ、みんな可愛い子たちじゃない。
リンゴ、いくつか持っていかない?
子どもたちに免じて、サービスしちゃう」

「ほう、そういうことなら、
ありがたくもらっておこう」



歩くたびに、誰かがヴォルフに話しかけてくる。
どうやら、ヴォルフはこの町では
ちょっとした「顔」になっているらしい。
その連れということで、たくさんの人が
俺たちにも関心を向けてくれた。
誰も、嫌悪や侮蔑のまなざしを向けてきたりはしない。



「少しは安心したか?」 



今朝までの冷たい感じじゃなく、
いつも通りのやわらかい笑顔でヴォルフが言った。



「この町はな、十七年ばかり前に、
一度滅びかけたことがある。
……ロクでもない海賊のせいでな。
その事件の後で、標語が作られた。
『誰もが喜べる町を。誰もが優しくあれる町を』とな。
だから、喋る白クマがいるくらいで、
町の人間は嫌な態度をとったりしないわい。
ここを訪れる者たちを、できる限りあたたかく迎え入れる。
それがこの町の精神なんじゃ」

「じいさん……あんた、こうなるのが分かってたのか」

「当たり前じゃ。この天才発明家、
多少の未来は見通せるわい」

「だったら、先に説明しときゃいいじゃねェか」

「ふんっ。ワシが口で説明したところで、
お前たちは納得できんじゃろうし、
不安が消えることもなかったはずじゃ。
……他人の優しさなんてのはな、
直接触れなければ意味のないものなんじゃ」



たしかに、ヴォルフの言う通りだ。 
前もって安全な場所だと言われても、
俺たちは信用できなかっただろう。 
でもこうして、活気のある町の中で
たくさんの人に当然のように話しかけられていると、
ここへ来る前の恐怖や不安は
どっかへ吹っ飛んでいくように思えた。



「よし、それじゃあ町の駐在の所へあいさつに行くぞい。
ガキどもを働かせるんなら、
許可をとっておく必要があるんでな」



広場を抜けて進んでいくと、
レンガ造りの小さな建物があった。
どうやら、ここが町の駐在所らしい。



「ラッド!おるか!」



呼びかけに応じるようにして、中から男が姿を現した。
赤い制服を着て、腰には刀を差している。
このおっさんが駐在なんだろう。



「んんー、ヴォルフじゃないか!
なんだ、お前が私のところを訪ねてくるなんて、
珍しいこともあるもんだな」

「今日はちょっと頼みがあってな。
こいつらを、町で働かせてやってくれないか。
今、ワシの家で面倒を見てやってるガキどもじゃ」

「面倒を見てる?って人数増えてないか!?
そっちの女の子は知ってるが、どう言う風の吹き回しだ?」

「……ふん、深い意味はないわい。
こいつらを住まわせて、
ワシは労働力を提供してもらう。
単なるギブ&テイクの関係じゃ」

「……ま、そういうことにしといてやろう。
ほら、ここに保護者としてサインしな。あとは、
好きに町を歩いて雇ってくれるところを探せばいい」



ヴォルフがサインをした後で、
俺たちも自分の名前を書いた。
……同じ紙に、全員の名前が並んでいる。
なんだかそれは、まるで家族みたいで。

「なあ、ヴォルフ」



ラッドが少し重い感じの声でヴォルフの名を呼んだ。



「ん、なんじゃ?」

「あんた、町に戻ってくる気はないのか……?
全員、歓迎してくれるよ。
そっちのちびっ子たちも含めて、
みんな親切にしてくれるはずだ」

「……ははっ。そいつは、ごめんこうむる。
ワシは今の生活が気に入っとるんじゃ。
そもそも、町の中じゃ満足に実験をやったり
発明品を作ったりもできんだろう。
こんな老いぼれには、島の片隅で
ひっそりと暮らしとるのがお似合いよ」

「……分かった。これ以上、私からは何も言わん。
だが、気が向くようなことがあれば、
遠慮なく言ってくれよ」

「ふん。厚意だけ、受け取っておくわい」



ヴォルフの口調にはどこか寂しさを感じたが、
俺はそれを上手く言葉にすることができなかった











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